自筆証書遺言書の正しい書き方とは?絶対に押さえたいポイント5点を例文付きで解説
「終活」の普及とともに、自分が亡くなった後の希望を、文書できちんと表明しておこうと考える方が増えています。その流れで遺言書の作成を検討される方も多いです。
遺言書は、自分の意思を家族に伝えたいときに、効果的な方法と言えます。ただ正しい遺言の書き方を理解していないと、せっかく作成した遺言書が無効となり、かえって遺言書や遺産にまつわるトラブルを増やしてしまいます。(遺言書が有効か無効かについてはこちらの記事で詳しく解説しています)
そこでこの記事では、自筆証書遺言書を作成する上で、「絶対に押さえておきたいポイント」を5つにまとめてお伝えします。ぜひ最後までお読みになり、万全な遺言書作成の参考にしてください。
正しい自筆証書遺言の書き方とは
まずは正しい「自筆証書遺言」の書き方をご紹介します。書き方のポイントは5つです。冒頭でもお話しましたが、自筆証書遺言は正しい書き方を守らないと、せっかく書いたものが効力を発揮しないことがあります。
自筆証書遺言書・書き方のポイント5つ
自筆証書遺言書を書くときは、必ず次の5つのポイントを守ってください。
【自筆証書遺言書の書き方・5つのポイント】
1.法律の要件を満たす
2.遺産の内容を正確に書く
3.遺留分にも気を配る
4.付言事項を記載する
5.遺言執行者は必ず指名する
それでは各ポイントを、順番に見ていきましょう。
自筆証書遺言書の書き方ポイント1 法律の3要件を満たす
自筆証書遺言とは、本人が直筆で記載する遺言のことです。自筆証書遺言について、民法では以下のように規定しています。
【民法 第968条1項】
自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
出典引用:民法 第968条1項
遺言書として効力を発揮するためにはすべての要件を満たす必要があり、一つでも要件を欠くと無効です。注意しましょう。
要件を満たす書き方の例
それでは要件を満たした遺言書の書き方の事例をご紹介します。
遺言書遺言者 中山 太郎は次の通り遺言する。
- 私は、私の所有する別紙1の不動産を、妻花子(昭和35年10月15日生)に相続させる。
- 私は、私の所有する別紙2の預貯金を、長男光良に相続させる。
- 私は、この遺言の遺言執行者として、次の者を指定する。
住所 埼玉県さいたま市大宮町2丁目3番地 職業 弁護士 氏名 高木優 生年月日 昭和60年1月10日 平成30年12月30日 東京都新宿区新宿1丁目11番3号 遺言者 中山 太郎 ㊞
以上のような形式で「手書き」で書きます。
重要な点は「日付を明確に書くこと」です。
「〇年〇月吉日」といったあいまいな書き方では日付が特定できず、無効とみなされます。「平成30年12月30日」など年号まで書くか、西暦を使って明確に年月日が特定できるように書きましょう。
最後に、署名して印を押します。使用する印鑑は実印が望ましいです。
【参考】
法務省のHPにも遺言書の様式と注意事項が掲載されていますので、ぜひ参考にしてください。
(06:自筆証書遺言書の様式について)
財産目録を作成
遺言書には、別紙で財産目録をつけます。この別紙目録については、パソコンで作成して添付しても構いません。
以前は自筆証書遺言の要件として、「本文は自書」と決まっており、目録も自著していました。ただ全てを自署するのは、なかなか大変な作業です。ところが2019年1月の民法改正施行時に要件が緩和され、財産目録についてはパソコンで作成してもよいことになりました。
以下の解説が、法務省のWEBサイトに掲載されています。
Q3 財産目録の形式に決まりはありますか?
目録の形式については,署名押印のほかには特段の定めはありません。したがって,書式は自由で,遺言者本人がパソコン等で作成してもよいですし,遺言者以外の人が作成することもできます。また,例えば,土地について登記事項証明書を財産目録として添付することや,預貯金について通帳の写しを添付することもできます。 いずれの場合であっても,Q4のとおり,財産目録の各頁に署名押印する必要がありますので,注意してください。
出典引用:法務省WEBサイト
・不動産の登記事項証明書のコピー
・銀行通帳のコピー
といった文書も遺言書も目録として有効です。
偽造を防ぐために、パソコンで作成した目録にも署名押印をしてください。
自筆証書遺言書に使用する用紙と筆記具
遺言書の執筆に使う筆記具には特に定めはありません。用紙は何でも良いです。チラシの裏でも便箋でもコピー用紙でも何でも構わないです。用紙によって有効・無効が変わることはありません。
使用する紙で気分が変わる‥という方には、こうした商品も発売されていますので、検討してみてください。
使用するペンの定めも特にありません。しかし書いた内容が簡単に消えるようなペンは使わないでください。鉛筆やこすると消えるペン、水にぬれると流れてしまう水性ペンは望ましくありません。油性ボールペンの使用が確実です。
遺言書の書き方ポイント2 相続財産を正確に書く
遺言書は、一切の疑いが生じないよう、細かく正確に記載する必要があります。なぜなら、本人の死後に開封されるので、本人が直接補足説明できないからです。具体的には、登記簿や預金明細を参照して、その内容通りに記載するようにしましょう。
はじめに悪い例をご紹介します。
【悪い例】
「妻に実家を相続させ、長男に預金口座を相続させる」
上記の例では、書き方に客観性がなく、具体的にどの財産を指しているのかよくわかりません。
遺言書は、相続人が銀行口座や不動産の名義変更をする時にも、添付書類として使用します。第三者が見ても財産を特定できるよう、相対的な表現、あいまいな表現は避けてください。
次で良い書き方の見本をご紹介します。財産や目的別に掲載しますので、必要な部分を参考にしてください。
相続財産別よい書き方の例
相続財産別に、よい書き方の例をご紹介します。
・不動産
・銀行預金
・株式
・遺贈
不動産に関する遺言書の例
1.妻 下田 花子(昭和20年1月12日生)に下記不動産を相続させる。
土地
住所:東京都渋谷区松濤1丁目1番1
地番:東京都渋谷区松濤1丁目100番2
地目:宅地
地積:200平方メートル
建物
住所:東京都渋谷区松濤1-1-1
家屋番号:東京都渋谷区松濤1丁目100番2
種類:居宅
構造:鉄筋コンクリート造2階建て
床面積:1階部分 80平方メートル
2階部分 80平方メートル
名称:松濤マンション
以下は、書くときに注意する点です。
・土地 →地番や地目、地積を記載する
・建物 →構造や床面積を記載する
土地や建物の正確な情報がわからなければ、法務局で登記簿謄本を取得して、確認しましょう。
銀行預金についての遺言書の例
銀行預金についての記入例をご紹介します。
長男 山下一郎(昭和50年1月10日生)に下記預金を相続させる。
山田銀行 青山支店 普通口座12023
口座名義 山下太郎
以下は、銀行預金について遺言書で書くときの注意点です。
・銀行の支店名、口座番号、名義まで書く
・具体的な金額を書かない
また、記載漏れを防ぐための対策として、次のような文章を入れておくと良いでしょう。
その他遺言者に属する一切の財産を、長男相続一郎(昭和60年12月1日生)に相続させる。
以上のように、「その他遺言者に属する一切の財産を」といった一文を入れておけば、残高の変動が予想される銀行預金の相続について、もめる心配は少ないです。
株式についての遺言書の例
下記は、遺言書に株式の相続について書くときの記入例です。
昭和証券株式会社平成支店に預託している○○株式会社の株式の全部につき、下記の内容に従い相続させる。
長男 山本一郎(昭和45年1月1日生) 6000株
長女 佐藤紀子(昭和49年2月2日生) 4000株
株式の相続についても、株数や相続させる人の情報を、疑いの余地がないよう正確に書きましょう。
遺贈についての遺言書の例
下記は、遺言書に財産の遺贈について書くときの記入例です。
下記の建物を長女佐藤紀子(昭和40年10月1日生)の夫佐藤俊夫(昭和41年9月5日生)に遺贈する。
建物
住所:東京都中野区東中野1-1-1
家屋番号:東京都中野区東中野1丁目1番3
種類:貸事務所
構造:鉄筋コンクリート造2階建て
床面積:1階部分 100平方メートル
2階部分 100平方メートル
名称:東中野ビル
遺贈の場合も相続のときと同様、人と財産の情報を正確に特定できるように書きます。
未成年者後見人の指定に関する遺言書の例
相続人の中に未成年者がいる場合は、遺言で未成年者後見人を指定したい場合もあるでしょう。未成年者後見人の指定について書く場合の記入例をご紹介します。
未成年者の三女山田美津子(平成52年3月3日生)の未成年後見人として、下記の者を指定する。
本籍 東京都新宿区西新宿1-1-1
住所 東京都新宿区西新宿1-1-1
氏名 小池 一夫
職業 会社員
生年月日 昭和39年5月30日
個人が正確に特定できるよう、以下の情報をもれなく書きます。
・未成年の相続人
・未成年者後見人
つづいて、遺言書を書く時に注意すべき遺留分について解説します。
遺言書の書き方ポイント3 遺留分に配慮する
遺留分とは、法定相続人に認められる権利です。法定相続人は、遺言に何が書かれていようとも、法律で決められた「遺留分」を相続する権利を持っています。したがって遺留分を侵害するような遺言書を遺してしまうと、問題が起きるかもしれません。(遺言書と遺留分についてはこちらの記事で詳しく解説しています。)
以下はトラブルになりそうなケースです。
法定相続人 | 長男と次男の2人 |
---|---|
遺言内容 | 遺産のすべてを長男に相続させる |
この内容でも要件を満たせば遺言としては有効ですが、次男の遺留分を侵害しています。
もし次男が遺言内容を不服と思えば、長男に対して遺留分を請求可能です。これは法律で保証された権利です。
自分の死後に、法定相続人にこうした手間をかけさせたくないなら、始めから遺留分まで見据えた遺言を書きましょう。
遺言書の書き方ポイント4 法定遺言事項と付言事項
遺言書に書かれる内容には
・法的拘束力のある「法定遺言事項」
・法的拘束力のない「付言事項」
の2つがあります。
順番に解説します。
法定遺言事項
法定遺言事項とは、遺言書に記載すると法的拘束力が発生する遺言内容のことです。各事項内容は、民法で細かく規定されています。
【法定遺言事項】
・子の認知など相続人の身分に関する事項(民法781条2項)
・相続人の廃除(民法893条)
・相続分の指定などの相続に関する事項(民法902条)
・遺贈などの財産の処分についての事項(民法964)
・その他遺言の撤回(民法1022条)
・祭祀継承者の指定(民法897条)
相続財産や相続人に影響を与える項目は、法定遺言事項として法律で決められており、相続人はこれを遵守しなくてはなりません。
付言事項
付言事項とは、法的拘束力のある「法定遺言事項」以外で、遺言に書かれる内容を指します。実は遺言の成立要件には「どんな内容を書くべきか」の定めはなく、何を書いても良いのです。
付言事項を書いておくとメリットがあります。
付言事項のメリット
付言事項のメリットは、それを書くことで「遺言者の相続人に対する思い」を伝えられることです。
・家族に対する感謝の気持ち
・遺言を書いた経緯
・なぜそのような遺産の分け方にするのか
・相続人に対しどのような感情を抱いていたか
こうした強く伝えたい思いがあるなら、付言事項として遺言に書いておくとよいです。付言事項があることで遺言者の意思が相続人に伝わり、感情面から来る相続トラブルが起きにくくなるからです。ただ付言事項は法定遺言事項ではないので、法的拘束力はないこともどうぞご承知おきください。
遺言書の書き方ポイント5 遺言執行者と保管方法の指定
遺言では、遺言執行者と保管方法についても指定しておきましょう。
遺言執行者の指定
遺言執行者(いごんしっこうしゃ)は、遺言の内容を適切に実現する職務を行う人です。相続人から1名を指定してもよいですし、弁護士などの第三者を指定してもよいです。
相続財産の分配にあたり、名義の変更・登記の変更、不動産の売却など、やるべきことは沢山あります。
遺言執行者を定めておけば「誰がやる」「どのようにやる」といったことで、もめごとが起きにくくなるメリットがあります。
遺言執行者についての記載例
実際に遺言に遺言執行者について記載するときは、以下のように書きます。
この遺言の執行者として、下記の者を指定する。
住所 東京都千代田区神田1-9-1
氏名 丸山良太
職業 弁護士
生年月日 昭和35年1月4日
遺言執行者が特定できるよう、住所・氏名・職業・生年月日を明記します。
自筆証書遺言の保管方法
自筆の遺言は、保管にも気を配らねばなりません。紛失や盗難、改ざんを防ぐため、次の処理をして遺言書を保管するようにしましょう。
封筒に「封印」を施す
遺言書を作成したら、封筒などに入れてしっかり封をします。封をしたら、封筒の糊付け部分には「封印」をしておくと効果的です。封印とは、封をした部分に印を押すこと。手元の印鑑で、封の部分に印を押しておくようにしましょう。
封印があれば未開封と証明できますし、想定外に見つけた人が気軽に開封してしまうことを防げます。
保管は第三者による保管が望ましい
遺言書は作成者が死亡するまで安全に保管する必要がありますが、適切な保管は意外と難しいです。
簡単に見つかる場所に保管すると、相続人の誰かが勝手に中身を見て、自分に不利益な内容を理由に、捨てたり書き換えたりする危険があります。しかし逆に誰も知らない方法で保管して、被相続人の死後も、相続人の手に遺言書が渡らないと、書いた意味がありません。
こうした問題を解決する方法として、利害関係のない第三者(弁護士などの専門家)に預けたり、銀行を利用して保管したりする方法があります。
また2020年7月10日からは、法務局で自筆証書遺言を保管する制度が始まっていす。法務局での預かりサービスの内容についての詳細は法務省のサイトにてご確認ください。
法務局における自筆証書遺言書保管制度について(法務省WEBサイト)
いずれの方法も預かり費用は必要になります。
自筆証書遺言で最大の注意点「検認」
遺言書が効力を発揮するのは遺言者が亡くなった後ですが、ここで最大の注意点があります。それは「検認」です。
検認とは、遺言書の存在と内容を相続人に知らせるとともに、遺言書の偽造・変造を防止するための手続きです。検認は家庭裁判所で行います。
自筆証書遺言、秘密証書遺言の保管者・発見者は、作成者の死後に遺言書を家庭裁判所に提出し、検認を受けねばなりません。家庭裁判所以外で開封された遺言書は原則として無効です。
ただし自筆証書遺言でも、法務局での保管制度を活用して2020年7月10日以降に法務局に保管されたものは検認不要となっています。
【参考】
7月10日から開始します!預けて安心!自筆証書遺言書保管制度
引用出典:法務省 法務局における自筆証書遺言書保管制度について
まとめ
遺産は被相続人が長い時間をかけて築いてきた財産です。遺産について被相続人の意向が尊重されるよう設けられているのが遺言書の制度と言えます。
遺言書には相続財産の分配方法だけでなく、自分の葬式の方法や、遺族へのメッセージといった財産と関係のない内容も記すことができます。
相続でのトラブルを予防し、メッセージを遺族に伝える意味でも、遺言書には強い力があります。
とはいえ遺言書の執筆は、自分自身を見つめることでもあり、なかなか筆が進まない方も多いです。「どうしても書き方に迷う」「これで良いのか不安が残る」と心配になる方も少なくありません。
迷った時は、相続に強い専門家に相談すると良いでしょう。遺言執行時まで考えた上で、円満な相続につながる遺言の書き方をアドバイスしてくれます。
‟ともにグループ”では、遺産相続に関することや相続税のご相談を承っております。生前贈与や相続開始後の節税でも多くのノウハウがあるので、どうぞお気軽にご相談ください。
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