『相続税』がどんなものか分かりやすく解説!

相続税とは ― 初めに

「相続税」と聞くと皆様は、どのようなイメージを抱きますか。また、そもそも「相続税」とは何でしょうか。正確に理解をしている方は以外に少ないのではないでしょうか。

歴史を遡れば相続税は日露戦争の戦費を調達する目的の下に開戦の翌年に導入された税金でした。当時は現在とは、かなり違った仕組みでした。それが時代と共に変遷し現在の姿となったのです。

そして「相続税は、どのような時に課税されるの?」との質問に正確に答えられる人は専門家等の一部の方を除いては、いらっしゃらないのが現実だと思います(だからこそ、このホームページをご覧いただいているのだと思いますが(笑))。

そこで以下では相続税とは一体どのような税金で、どのような場合に、どのように課税されるのかについて出来るだけ分かりやすく解説したいと思います。

出来るだけ分かりやすく解説することに主眼を置いておりますので、

①行為計算否認(相続税法64条)
②国外財産の取り扱い
③相続税が非課税となる財産についての細かい内容
④遺贈による寄付の場合の非課税
⑤遺産寄付の場合の非課税
⑥税額控除
⑦連帯納付義務
⑧遺留分侵害額請求があった場合
⑨相続時精算課税

などの難解な論点や複雑な論点には触れておりません。この点、どうかご容赦ください。

これらの論点についてお知りになりたい方に対しては別途の解説を検討・予定しております。

相続税の概要

相続税は被相続人の財産(以下、これを「相続財産」と言います。似たような言葉に「遺産」があります。両者の言葉の意味は厳密には異なり使い分けが必要ですが、それでは却って分かり難くなってしまうので以下では「遺産」は使わず「相続財産」に統一いたします。)を相続、遺贈、死因贈与、特別縁故者への財産分与等によって取得した場合に、その取得者に対して課税される国税です。

また、相続財産ではないのですが被相続人の死亡により発生する経済的利益である生命保険金(死亡を原因とした損害保険金の給付を含む。以下、同じ。)と死亡退職金(これらを「みなし相続財産」と言います。)に対しても一定の場合に、その受取人に対して課税されます。

なお、どちらの場合にも以下に述べるように非課税枠が設けられていて、それを超える部分に対してだけ課税されます。また、どちらの場合にも課税されるのは個人だけであり、法人の場合には相続税は課税されず法人税の課税の領域となります。

課税の根拠すなわち、なぜ課税をするのかについては、いろいろと議論のあるところですが第一には人が亡くなったという偶然の出来事に起因して労せずして、その財産を他の人が取得するという点に担税力(税金の負担能力)があると考えられてのことであるのは言うまでもないところです。

現在の相続税の税率は下表のとおり10パーセントから55パーセントまでの8段階の超過累進税率となっています。

相続税が同じく国税である所得税や法人税と大きく異なる点の1つは付加税がないことです。つまり所得税や法人税には、それを納めると住民税等の他の税金が、まるで「おまけ」のようにくっ付いてきて結局のところ更に税額が増えてしまう仕組みとなっています。ところが相続税には、そのような税金はありませんので相続税だけを納めれば、それで「おしまい!」となります。

税額の計算 ― 相続財産

それでは相続税は具体的に、どのように計算されるのでしょうか。相続税の課税対象となる相続財産は、現金、預貯金、有価証券、宝石、土地、家屋、貸付金、ゴルフ会員権などのほか特許権、著作権など金銭に見積もることが出来る経済的価値のあるものほぼ全てです。事業を行っていた方であれば事業用設備や売掛金なども含まれます。

国外にある相続財産も原則として課税対象となりますが既に述べた通り、この点についての細かい解説は省略させていただきます。

なお、お墓、仏壇、仏具、祭具等の祖先の祭祀の為の財産は課税すべき相続財産には含まれず課税対象外となります。一般的に、それらの財産は経済的な価値や効用の為に所有されてはおらず、日常的な礼拝の対象資産として存在しているものですので、国民感情や宗教上の理由などから相続税を課税するのは不適切であると考えられている為です。但し、純金製の仏具など換金性の高い物については主に相続税の課税を免れる目的の下に購入したと税務署に判断されてしまうと課税されてしまうこともあるので注意が必要です。また、この非課税の規定に関して良く言われることなので皆様も一度は耳にしたことがあるかも知れませんが「相続税対策として生前にお墓を購入しておくと課税される相続財産が減るために節税になる。」と言われます。確かにその通りですが一つ注意点があります。それは必ず早めに現金で支払うことです。分割払いで購入して完済前に亡くなった場合、残額は以下で述べる「債務控除」が出来ないからです。一括払いの場合でも支払日前に急死してしまったら「債務控除」が出来なくなってしまって結局のところ節税にはなりません。

次に、相続人が被相続人から亡くなる前3年以内に、これらの財産を贈与されていた場合には(いわゆる生前贈与)、その贈与された財産も相続財産に加えて計算することになります。

そして、このようにして計算された相続財産の合計額から、被相続人の死亡の時点における借入金やローン、クレジットカードの未決済額、固定資産税や所得税などの未払税金、入院費などの死亡時における未払の医療費、亡くなるまでの未払の光熱費などの相続債務を差し引きます。これが先ほど触れた「債務控除」と呼ばれるもので被相続人に属していた債務のうち一身専属的でなく、かつ金銭に換算することの出来るものについては原則として差し引くことが出来ます。しかし既述の通り、お墓などの祖先の祭祀の為の財産の購入代金は差し引くことは出来ないので注意が必要です。また、ここで差し引いた医療費については被相続人の所得税の準確定申告、又は被相続人と生計が一であった親族の所得税の確定申告において医療費控除が出来なくなりますので、この点も併せて注意が必要です。

そして更に被相続人の葬式費用を差し引くことが出来ます。

最終的には「3000万円+600万円×法定相続人の数」の非課税枠(基礎控除額)があるので、それを超えた部分についてだけ課税されます。なお、ここで言う「法定相続人の数」とは「民法上の相続人の数」とは必ずしも一致しません。すなわち家庭裁判所に相続放棄の手続きをしたことによって相続人の数が増減した場合でも、それは無かったものとして数えます。また民法上は胎児も相続人となれますが、確定申告書の提出時までに生まれて来なければ、ここでの計算に入れることは出来ません。また養子については相続人の中に実子がいない場合は2人まで、実子がいる場合には1人までしか計算に入れることは出来ません。なお、特別養子縁組による養子の場合と配偶者の連れ子(その配偶者の実子、又は特別養子縁組による養子に限り、単なる普通の養子は含みません)を養子にした場合には実子とみなされることになっています。

以下、本文中で「法定相続人の数」という場合は全て同じです。

整理すると、

相続財産の額+相続人に対して亡くなる前3年以内に贈与された財産の額-相続債務(債務控除)の額-葬式費用-基礎控除額(3000万円+600万円×法定相続人の数)=課税対象額

となります。

ここからは少し難しくなりますが、以上により算出された相続財産の課税対象額を一旦、相続人が民法上の法定相続分に従って相続したものと仮定して分配し各相続人の相続税額を計算した上で(税率等は下表を参照)、それを再び合算して相続税の総額を算出します。

この相続税の総額を次は相続人らが実際に取得することになった財産の額に応じて按分し最終的な各人の相続税額が算出されることになります。

そして最後に相続財産の取得者が被相続人の一親等の血族(代襲相続人となった孫(直系卑属)を含みます。)及び配偶者以外の者である場合には、この時点で最終的に相続税額が2割増しに加算されることになります。

また、配偶者には、このようにして算出された相続税額のうち法定相続分の金額又は1億6千万円のうちの高い金額までの相続税がかからなくなるという配偶者の税額軽減(配偶者控除)という特典的制度があります。この制度は具体的な配偶者の取得財産が相続人間の協議等によって確定していないと使えません。また後に触れるように、この制度を利用する旨を記載した確定申告書を提出することによって初めて利用できる制度となっておりますので、この点にも注意が必要です。

みなし相続財産に対する課税

既に述べたように、生命保険金と死亡退職金にも相続税が課税されます。死亡退職金については特に説明は要らないと思います。言うまでもなく被相続人の勤務先から相続人へ支払われる退職給付のことです。生命保険金については若干の説明が必要かと思います。すなわち、このうち相続税が課税されるものは、被相続人が契約者となっていた保険の死亡保険金を相続人が受け取った場合のみです。生命保険金と死亡退職金のそれぞれにおいて「500万円×法定相続人の数」が非課税枠(非課税限度額)となっており、それぞれ、それを超えた部分についてだけ課税されます(下記算式)。そして、このようにして課税された最終税額については、生命保険金、死亡退職金のそれぞれについて実際にこれらを受け取った金額の割合に応じて各相続人が負担し納税することになります。

生命保険金の額-非課税限度額(500万円×法定相続人の数)=課税対象額

死亡退職金の額-非課税限度額(500万円×法定相続人の数)=課税対象額

最後に

相続税の計算は複雑かつ難解な作業です。

相続税額がゼロとなる場合には原則として税務署に相続税の確定申告書を提出する必要や義務はありません。

しかし注意すべきは、上で述べた配偶者の税額軽減(配偶者控除)、小規模宅地等の課税の特例(ここでは述べていません)など一部の減税制度については、それを利用する旨を記載した確定申告書を提出することにより初めて利用できる制度となっていますので、それを怠ると、これらの制度は利用できないという点です。

もし、いろいろと分からないことがありましたら何なりと専門家に尋ねるのが得策と言えるでしょう。

相続税の税率

法定相続分に応ずる取得金額税率控除額
1,000万円以下10%
3,000万円以下15%50万円
5,000万円以下20%200万円
1億円以下30%700万円
2億円以下40%1,700万円
3億円以下45%2,700万円
6億円以下50%4,200万円
6億円超55%7,200万円

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