【第3回】相続税の節税方法をわかりやすく解説!
第3回目の今回は「特例を使って課税価格を本来の財産評価額よりも引き下げる。」という方法について述べたいと思います。
特例を使って課税価格を本来の財産評価額よりも引き下げる。
相続税における財産評価額の算出方法は「財産評価基本通達」と呼ばれる通達によって決められており、これは法令ではありませんが、多くの場合、実務上は、この通達に依拠して算出されています。そして、このようにして算出された財産評価額が、そのまま課税価格とされます。
ところが一定の特例を使うことによって、課税価格を、こうして得られた財産評価額よりも減額できる場合があります。
なぜ、このような特例が設けられているのか、その立法趣旨について説明を始めると長くなってしまいますので、ここでは触れませんが、このように一定の場合に相続税が減額される特例があるということだけは知っておいて下さい。
この特例は大きく4つあります。すなわち「特定事業用宅地等」「特定同族会社事業用宅地等」「貸付事業用宅地等」「特定居住用宅地等」と呼ばれるものがあり(4つを総称して「小規模宅地等の課税の特例」などと呼ばれます。)相続財産が、これら4つのうちのどれか1つ以上に該当する場合には相続税の課税価格が一定の割合で減額されるというものです。
減額割合が大きいので相続税額がゼロになることも珍しくありません。但し、税務署に対して何もしないまま黙っていては減額はされません。この特例を使う為には、きちんとその旨を記載し、課税価格を減額計算した申告書を提出する必要があります。これは原則として申告期限内に提出する必要がありますが、申告期限経過後における期限後申告や修正申告において行っても大丈夫です(租税特別措置法第69条の4第7項カッコ書き)。なお、申告期限内に遺産分割協議が整わない為に、この特例を使った減額計算が出来ない場合についての取り扱いについては、後程、ご説明いたします。
注意すべき点としては「この特例を使った申告書の提出は済ませたが本当は、もっと有利にこの特例を使って、もっと相続税を減らすことが出来たのだが・・・。」などと後になってから気付いた場合には、原則として、もはや訂正を求めること(更正の請求)は出来ませんが、その一方で申告内容に誤りがあって相続税の総額が増える場合には、その為の修正申告の中で特例の使い方を有利な方法へと変えること等が出来るという点です(税法における、このような考え方を「総額主義」と呼ぶことがあります。)。先ほど「修正申告において行っても大丈夫です」と言ったのは、こういった運用がされているからなのです。
この特例は非常に大雑把に説明すれば、被相続人が使用していた土地等を、それと同一目的の下に相続人が使用を継続すれば相続税が減額されるというものです。住んでいた土地であれば同じように住み続ける、事業に使っていた土地であれば、その事業を承継・継続する、他人に貸していた土地であれば、そのまま同一人に貸し続けると言った具合にです。
しかし、以下のご説明をお読み頂ければお分かりの通り、要件が大変複雑になっておりますので、将来、この特例を使って相続税を節税しようと考えるのであれば、早い段階から税理士等の専門家に相談して、必要な要件を整えておくことをお勧めします。また、相続開始後の相続税の申告についても専門家に相談するなり依頼するなりして進めることを強くお勧めします。
余談ですが、税金のプロフェッショナルであるはずの税理士等ですら要件が詳細かつ複雑であるので時に混乱しそうになる程、難しい特例なのです(笑)。
それでは以下、順に、ご説明いたします。(以下全ての表の出典は「国税庁ホームページ2021年11月30日時点」です。(但し若干の修正を施しています。))
4つの特例
特定事業用宅地等
相続開始の直前において被相続人等の事業(不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業、及び、事業と称するに至らない不動産の貸付けその他これに類する行為を除きます。)の用に供されていた宅地等(その相続の開始前3年以内に新たに事業の用に供された宅地等を原則として除きます。)で、次表の区分に応じ、それぞれに掲げる要件の全てに該当する被相続人の親族が相続又は遺贈により取得したものが対象です。
この場合には、その土地の財産評価額から400平方メートルを限度として、その80パーセント相当額を減額したものが課税価格となります。
○ 特定事業用宅地等の要件
区分 | 特例の適用要件 | |
被相続人の事業の用に供されていた宅地等 | 事業承継要件 | その宅地等の上で営まれていた被相続人の事業を相続税の申告期限までに引き継ぎ、かつ、その申告期限までその事業を営んでいること。 |
保有継続要件 | その宅地等を相続税の申告期限まで有していること。 | |
被相続人と生計を一にしていた被相続人の親族の事業の用に供されていた宅地等 | 事業継続要件 | 相続開始の直前から相続税の申告期限まで、その宅地等の上で事業を営んでいること。 |
保有継続要件 | その宅地等を相続税の申告期限まで有していること。 |
特定同族会社事業用宅地等
相続開始の直前から相続税の申告期限まで、相続開始の直前において被相続人及び被相続人の親族等が発行済株式の総数又は出資の総額の50パーセント超を有している法人(相続税の申告期限において清算中の法人を除きます。)の事業(不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業及び事業と称するに至らない不動産の貸付けその他これに類する行為を除きます。)の用に供されていた宅地等で、次表に掲げる要件の全てに該当する被相続人の親族が相続又は遺贈により取得したものが対象です。
この場合には、その土地の財産評価額から400平方メートルを限度として、その80パーセント相当額を減額したものが課税価格となります。
○ 特定同族会社事業用宅地等の要件
区分 | 特例の適用要件 | |
その法人の事業の用に供されていた宅地等 | 法人役員要件 | 相続税の申告期限においてその法人の役員(法人税法第2条第15号に規定する役員(清算人を除きます。)をいいます。)であること。 |
保有継続要件 | その宅地等を相続税の申告期限まで有していること。 |
貸付事業用宅地等
相続開始の直前において被相続人等が営む不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業及び事業と称するに至らない不動産の貸付けその他これに類する行為(以下「貸付事業」と言います。)の用に供されていた宅地等(その相続の開始前3年以内に新たにこれらの用に供された宅地等を原則として除きます。)で、次表の区分に応じ、それぞれに掲げる要件の全てに該当する被相続人の親族が相続又は遺贈により取得したものが対象です。
この場合には、その土地の財産評価額から200平方メートルを限度として、その50パーセント相当額を減額したものが課税価格となります。
○ 貸付事業用宅地等の要件
区分 | 特例の適用要件 | |
被相続人の貸付事業の用に供されていた宅地等 | 事業承継要件 | その宅地等に係る被相続人の貸付事業を相続税の申告期限までに引き継ぎ、かつ、その申告期限までその貸付事業を行っていること。 |
保有継続要件 | その宅地等を相続税の申告期限まで有していること。 | |
被相続人と生計を一にしていた被相続人の親族の貸付事業の用に供されていた宅地等 | 事業継続要件 | 相続開始前から相続税の申告期限まで、その宅地等に係る貸付事業を行っていること。 |
保有継続要件 | その宅地等を相続税の申告期限まで有していること。 |
特定居住用宅地等
相続開始の直前において被相続人等の居住の用に供されていた宅地等で、次表の区分に応じ、それぞれに掲げる要件に該当する被相続人の親族が相続又は遺贈により取得したものが対象です。なお、その宅地等が2以上ある場合には主としてその居住の用に供していた1つの宅地等に限られます。
この場合には、その土地の財産評価額から330平方メートルを限度として、その80パーセント相当額を減額したものが課税価格となります。
○ 特定居住用宅地等の要件
区分 | 特例の適用要件 | |||
取得者 | 取得者等ごとの要件 | |||
被相続人の居住の用に供されていた宅地等 | 1 | 被相続人の配偶者 | 「取得者ごとの要件」はありません。 | |
2 | 被相続人の居住の用に供されていた一棟の建物に居住していた親族 | 相続開始の直前から相続税の申告期限まで引き続きその建物に居住し、かつ、その宅地等を相続開始時から相続税の申告期限まで有していること。 | ||
3 | 上記1及び2以外の親族 | 次の(1)から(6)の要件を全て満たすこと(なお、一定の経過措置があります。) 。(1) 居住制限納税義務者又は非居住制限納税義務者のうち日本国籍を有しない者ではないこと。(2) 被相続人に配偶者がいないこと。(3) 相続開始の直前において被相続人の居住の用に供されていた家屋に居住していた被相続人の相続人(相続の放棄があった場合には、その放棄がなかったものとした場合の相続人)がいないこと。(4) 相続開始前3年以内に日本国内にある取得者、取得者の配偶者、取得者の三親等内の親族又は取得者と特別の関係がある一定の法人が所有する家屋(相続開始の直前において被相続人の居住の用に供されていた家屋を除きます。)に居住したことがないこと。(5) 相続開始時に、取得者が居住している家屋を相続開始前のいずれの時においても所有していたことがないこと。(6) その宅地等を相続開始時から相続税の申告期限まで有していること。 | ||
被相続人と生計を一にしていた被相続人の親族の居住の用に供されていた宅地等 | 1 | 被相続人の配偶者 | 「取得者ごとの要件」はありません。 | |
2 | 被相続人と生計を一にしていた親族 | 相続開始前から相続税の申告期限まで引き続きその家屋に居住し、かつ、その宅地等を相続税の申告期限まで有していること。 |
4つの特例を併用することも出来る
これらの4つの特例を併用することも出来ます。この場合には、以下の計算式による面積の制限に服することになります。この場合、いわゆる店舗兼用住宅の敷地のように事業用と居住用の双方に兼用されている宅地等の場合には、その兼用の割合を合理的に見積もって、この特例を使うことが出来ます。
◆貸付事業用宅地等がない場合
●特定事業用宅地等 + 特定同族会社事業用宅地等 ≦ 400㎡
●特定居住用宅地等 ≦ 330㎡
※上記2つの計算式の両方を満たす限りOKなので、つまり上記の両方の計算式を同時に使うことが出来ます(勿論、両方の合計 ≦ 730㎡ となります)。
◆貸付事業用宅地等がある場合
●(特定事業用宅地等 + 特定同族会社事業用宅地等)× 200/400 + 特定居住用宅地等 × 200/330+ 貸付事業用宅地等 ≦ 200㎡
■申告期限内に遺産分割協議が整わない為に、この特例を使った減額計算が出来ない場合についての取り扱いについて
この場合、当初の申告時には、その遺産分割の行われていない財産について、この特例の適用を受けることは出来ませんが、相続税の申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付して提出しておき、相続税の申告期限から3年以内に遺産分割がされた場合には、特例の適用を受けることが出来ます。この場合には遺産分割が行われた日の翌日から4か月以内に「更正の請求」を行うことになります。
なお、相続税の申告期限の翌日から3年を経過する日において相続等に関する訴えが提起されているなど一定のやむを得ない事情がある場合において、申告期限後3年を経過する日の翌日から2か月を経過する日までに「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を提出し、その申請につき税務署の承認を受けた場合には、判決の確定の日など一定の日の翌日から4か月以内に遺産分割がされたときに、これらの特例の適用を受けることが出来ます。適用を受ける場合には遺産分割がされた日の翌日から4か月以内に「更正の請求」を行うことになります。
結び
以上のように、この特例は大変、詳細かつ複雑に規定されています。そして実は、この他にも、まだまだ詳細な規定などがあるのですが紙幅の関係で割愛しています。
例えば、特定居住用宅地等の要件において、被相続人が要介護認定を受けた上で老人ホームなどの施設に入居ないしは入所していた場合には、被相続人は当該宅地等に居住していたものと扱われます。
そして、特定居住用宅地等の要件における「居住の用に供されていた宅地等」についての判断の際には、その宅地等の上で実際に居住の用に供されていた建物については被相続人の所有である必要はないとされています。
そして、また、特定居住用宅地等の要件における「一棟の建物」については、いわゆる二世帯住宅のような構造の建物において被相続人と相続人とが別々の世帯空間に居住していた場合には全体で「一棟の建物」と見るので問題は無いのですが、区分所有建物において、被相続人と相続人とが別々の区分所有部分に居住していた場合には、結局のところ、被相続人が居住していた区分所有部分に一緒に相続人が居住していたか否かで判断されることになってしまうので、この特例は使えないこととなってしまいます(つまるところ、同じ区分所有部分に居住していなければ「同居」とは看做されないと言うことになります。)。
そして、また、以上4つの特例の全ては相続又は遺贈によって土地等の権利を取得した場合に、その時点におけるその土地等の現況に応じて適用されるものであるので、相続が開始されないうちに、いわゆる生前贈与により先行して当該土地等を取得してしまった場合には、たとえ、相続時精算課税制度により、又は、相続開始前3年以内贈与として、当該土地等の贈与に終局的に相続税が課税されることとなり、そして、そのときに、一見これらの要件が全て備わっているように見える場合でも、もはや、この特例は使えません。
加えて付言すると、上記で頻繁に出てきた「申告期限」という文言の意味内容は、コロナ禍等を理由として申告期限の延長申請を行った場合には、全て、その延長された申告期限とされることになります。
また意外と気が付きにくい注意点としては、配偶者の税額軽減を使っている場合、配偶者には法定相続分相当額までは相続税がかからないのですが、この法定相続分相当額というのは相続税の課税価格を基にして算出しますので、当初の遺産の一部分割による申告で配偶者の相続税がゼロであったとしても、その後、遺産の全部分割による更正の請求がなされて、他の相続人にこの特例が適用されるに至った場合には、結果的に配偶者に相続税が発生することが有り得るという点です(勿論、この場合、配偶者の税額軽減のもう1つの要件である1億6千万円を超えなければ相続税はかかりませんが)。つまり、このように、この特例を使うことにより相続税全体の金額は減る一方、配偶者個人の相続税が増える場合が、ごく稀にありますので、この点にも注意が必要です。
このように本欄には書き切れない規定などが、まだまだ沢山ありますので、この特例について詳しく知りたい方は是非とも税理士等の専門家にご相談ください。
■エピローグ 会計検査院報告書から読み解く今後の展望
平成29年11月に会計検査院から公表された「租税特別措置(相続関係)の適用状況等についての報告書(要旨)」によれば、小規模宅地等の課税の特例の適用を受けた土地につき、申告期限経過後、短期間で譲渡をしている事例が多く見られ、それは貸付事業用宅地等が最も多く、次に特定居住用宅地等が多くなっています。そして、このような会計検査院の指摘事項が数年後の税制改正に結び付いたことが、過去、数多くありましたので、小規模宅地等の課税の特例の適用要件のうちの保有継続要件については「申告期限」から更に延長となる可能性も十分、有り得るところですので、今後、注意が必要です。【参考:税経通信 2021年11月号 113頁~114頁】
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