相続税の延納
初めに
以下では相続税の延納について述べます。
延納については国税庁や他の税理士法人などのホームページにも比較的詳しく書かれているところです。よって縁あって当税理士法人のホームページをご覧いただいている方の為に、それらとは違う視点も加えながら述べていきたいと思います。
相続税などの税金は納付期限に一括して納付しなければならないのが原則です。しかし何らかの事情により、それが困難な場合には延納と呼ばれる分割払いが認められることがあります。延納は相続税以外の税金にもありますが、ここでは相続税の場合に限ってお話を進めます。
まず前提として以下で述べる通り相続税の延納は税額が10万円を超えていないと認められません。延納が認められるのは相続税の本税だけであり、相続税に附帯する加算税、延滞税及び連帯納付責任額については延納は認められません。なお延納期間中は金利として利子税を納付しなければなりません。
延納をしたいと考える人は以下で述べる通り原則として納付期限までに延納申請書、並びに担保提供関係書類(担保の提供が必要な場合)を、その相続税を管轄する税務署に提出しなければなりません。間違って自宅や勤務先近くの税務署などに提出しないようにお気を付け下さい。
よく勘違いされる人がいるのですが延納は金融機関のローンなどとは異なり申し込めば、ある程度必ず利用できるものではありません。あくまでも国が許可した場合に例外的に認められるものです。
「利子税を支払うのだから希望者の全員に認めてもいいじゃないか。」との声が聞こえてきそうですが仮にそのようなことをすれば国の財政収入は不安定になってしまい国家運営に支障を来してしまいます。また税金を原則として速やかに納付しなければならないことは国民の納税の義務の観点から言っても当然のことと言えます。ローンなどは本来、金融機関が執り行う仕事なのです。
なお付言すれば破産宣告を受けて借金などが免責されても税金が免責されることはありません。税金だけは人生において何が起ころうとも大抵の場合、必ず支払わなければならないものとなっています。この点にも十分にご注意ください。
それでは以下、延納について手続き面を中心に述べていきます。
延納の要件
次に掲げる全ての要件を満たす場合に延納申請をすることが出来ます。
(1) 相続税額が10万円を超えていること。
(2) 一括で納付することを困難とする事由があり、かつ、その納付を困難とする金額の範囲内であること。
(3) 延納税額及び利子税の額に相当する担保を提供すること。ただし延納税額が100万円以下で、かつ延納期間が3年以下である場合には担保を提供する必要はありません。
(4) 延納申請に係る相続税の納付期限までに延納申請書を、その相続税を管轄する税務署に提出すること。
なお担保の提供が必要な場合には原則として担保提供関係書類を、これに添付して提出すること。
なお例外として金銭納付困難事由がないことを理由として相続税の物納申請が却下された場合には、その却下通知を受けた日の翌日から20日以内であれば、その却下された物納申請税額について延納申請を行うことが出来ます。
担保の種類
延納の担保として提供できる財産の種類は次に掲げるものに限られます。なお相続、遺贈等により取得した財産に限らず延納申請者の固有の財産や共同相続人又は第三者が所有している財産であっても担保として提供することが出来ます。なお税務署が延納の許可をする場合において延納申請者の提供する担保が適当でないと認めるときには、その変更を求めることもあります。
(1) 国債及び地方債
(2) 社債その他の有価証券で税務署が確実と認めるもの
(3) 土地
(4) 建物、立木、登記される船舶などで、保険に附したもの
(5) 鉄道財団、工場財団など
(6) 税務署が確実と認める保証人の保証
担保提供関係書類の提出期限の延長(担保の提供が必要な場合)
上記の通り原則として担保提供関係書類は延納申請書に添付して同時に提出する必要があります。ただし、それが出来ない場合には担保提供関係書類提出期限延長届出書を提出することにより1回につき3か月を限度として最長6か月まで担保提供関係書類の提出期限を延納申請書の提出期限よりも延長させることができます。
なお、延納申請された後、ご自身で担保提供関係書類の一部に提出漏れがあることに気付かれた場合には、その提出期限から1か月以内か、税務署から提出書類について不足している旨の通知があった日のいずれか早い日までに、この担保提供関係書類提出期限延長届出書を提出すれば提出期限内に、この提出があったものとみなされます。
提出された書類の訂正・不足書類の提出
提出された延納申請書に記載内容の不備があった場合及び担保提供関係書類に記載内容の不備や不足書類があった場合には、税務署から、書類の訂正や追加提出を求める相続税延納申請書及び担保提供関係書類に関する補完通知書(以下これを「補完通知書」といいます。)が送付されます。
その場合、補完通知書を受け取った日の翌日から20日以内に、この補完通知書の内容に従って書類の訂正や不足書類の作成・提出を行わなければなりません。この20日以内の期限までに、これらが無い場合には原則として、その延納申請は取り下げられたものとみなされることになります。
延納申請が取り下げられたものとみなされた場合には、その相続税額を直ちに納付しなければなりません。
この場合、納付期限の翌日から取り下げられたものとみなされた日までの期間については利子税が、取り下げられたものとみなされた日の翌日から納付の日までの期間については延滞税が発生することになりますので、ご注意ください。
延納申請についての審査期間
延納申請書が提出された場合、税務署は、その延納申請に係る要件の調査結果に基づいて、その延納申請書類の提出期限から原則として3か月以内に許可又は却下を行います。なお担保などの状況によっては許可又は却下までの期間が最長で6か月間延長される場合があります。なお、もしもこの期間内に税務署から何も連絡が無かった場合には許可があったものとみなされます。
却下があった場合の不服申立
税務署により延納申請が却下された場合には、その税務署に対して3か月以内に再調査の請求をすることが出来ます。その結果に対して更に不服な場合には、それから更に1か月以内に国税不服審判所に審査請求を行うことが出来ます。
なお、この国税不服審判所への審査請求は税務署への再調査の請求を経ずに直接おこなうこともでき、その場合の期限は上記の再調査の請求の期限と同じく3か月以内となります。税務署の判断にどうしても納得がいかない場合にはこのような手段も用意されていますが、時間、手間、専門家(税理士、弁護士など)への報酬などが生じてしまうことにもなります。そしてまた、一度、税務署が下した判断が覆ることは稀なので、あまり利用されていないのが実情です。しかし税務署の判断に明白な誤りがあると指摘できる場合には利用する価値はありますので、このような場合には当税理士法人まで、ご相談ください。
延納することが出来る金額(延納許可限度額)の計算方法は下表の通りです。
① 納付すべき相続税額 |
② 納期限において有する現金、預貯金その他の換価が容易な財産の価額に相当する金額 |
③ 申請者及び生計を一にする配偶者その他の親族の3か月分の生活費 |
④ 申請者の事業の継続のために当面(1か月分)必要な運転資金(経費等)の額 |
⑤ 納期限に金銭で納付することが可能な金額(これを「現金納付額」といいます。)(②-③-④) |
⑥ 延納許可限度額(①-⑤) |
【出典:相続税 贈与税の延納の手引 (国税庁 令和3年1月)】
延納期間及び利子税
延納のできる期間と延納にかかる利子税の利率については、その人の相続税額の計算の基礎となった財産の価額の合計額のうちに占める不動産等の価額の割合によって概ね下表の通りとなります。なお右端の「特例割合」が実際の利子税の利率になります。
区分 | 延納期間(最高) | 延納利子税割合(年割合) | 特例割合 | |
不動産等の割合が75%以上の場合 | ①動産等に係る延納相続税額 | 10年 | 5.4% | 0.7% |
②不動産等に係る延納相続税額( ③を除く) | 20年 | 3.6% | 0.4% | |
③森林計画立木の割合が20%以上の森林計画立木に係る延納相続税額 | 20年 | 1.2% | 0.1% | |
不動産等の割合が50%以上75%未満の場合 | ④動産等に係る延納相続税額 | 10年 | 5.4% | 0.7% |
⑤不動産等に係る延納相続税額( ⑥を除く) | 15年 | 3.6% | 0.4% | |
⑥森林計画立木の割合が20%以上の森林計画立木に係る延納相続税額 | 20年 | 1.2% | 0.1% | |
不動産等の割合が50%未満の場合 | ⑦一般の延納相続税額(⑧ 、⑨ 及び⑩ を除く) | 5年 | 6.0% | 0.8% |
⑧立木の割合が30%を超える場合の立木に係る延納相続税額( ⑩を除く) | 5年 | 4.8% | 0.6% | |
⑨特別緑地保全地区等内の土地に係る延納相続税額 | 5年 | 4.2% | 0.5% | |
⑩森林計画立木の割合が20%以上の森林計画立木に係る延納相続税額 | 5年 | 1.2% | 0.1% |
【出典:国税庁ホームページ 2021/09/22時点】
利子税について
現在、史上まれに見るデフレの影響を受け、利子税の利率は大変低くなっており、また、市場金利に連動する仕組みにもなっており毎年、見直しをされているところです。しかし、金融機関の貸出利率が利子税の利率よりも低い場合もあるので、利率だけを考えれば金融機関から借り入れを行って一括で納付してしまった方が有利になることもあります。
また会社を経営されている人で、その会社に貸付金などがある人は会社で金融機関から借り入れを行って、そのお金で、その貸付金などを会社から返済してもらい、これで相続税を納付してしまうという方法もあります(その場合、その金利は会社の経費にすることも出来ます)。
相続税の納税資金がない場合、延納だけが唯一の方法ではありませんので必要により金融機関などに相談することも有益です。
相続財産の売却による繰り上げ納付、並びに物納への切り替え
延納を続けることが難しくなってきた場合には相続財産を売却し、その代金で延納税額を繰り上げ納付することも選択肢の1つとなります。
相続財産のうち不動産や株式等を売却する場合には、その相続税の確定申告期限から3年以内の売却であれば譲渡所得税が軽減される特例があります。
よって土地や土地についての権利の売却、又はこれらを含む不動産の売却、並びに株式等の売却の場合には地価や株価等の動向を見極めながら、この3年以内という期限が1つの目安になります。なお繰り上げ納付をしても金融機関のように早期完済手数料などは発生しません。
また、その相続税の確定申告期限から10年以内であれば分割払いの期限が未到来の税額部分について延納から物納への変更申請を行うことも出来ます。これを特定物納といいます。特定物納に係る相続財産の収納価額は特定物納申請書を提出した時点での財産評価額となります。
延納を続けることが難しくなってきた場合には、このような選択肢もあり、この場合3年と10年という期限が目安となりますので、ご承知おき下さい。
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