【第5回】中小企業の事業承継・株式引継ぎと事業承継税制(1)特例措置

株式非公開の同族会社が事業承継するとき、自社株式の引き継ぎが大きな課題となっています。株式を後継者に引き継ぐには、株式の購入や納税のための資金が必要です。しかし資金不足により、優良な中小事業者が事業承継を断念し、廃業する事態が発生しています。

こうした状況を憂慮し、対応策として国は「非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予及び免除の特例」通称「事業承継税制」を制定しました。第5回〜第7回の合計3回は、この「事業承継税制」の内容と注意点について解説します。

はじめに制度の概要解説です。

事業承継税制の概要

事業承継税制とは、自社株式を後継者に贈与か相続で移動するときに課せられる、贈与税や相続税の納付を猶予する制度のことです。

【参考:制度の勘違いに注意!】

事業承継税制は納税猶予の制度です。しかし事業承継税制を、税額免除の制度と勘違いしている方がいます。

確かに一定の要件を満たせば最終的に納税免除となることもあります。だから間違いとは言い切れないのですが、基本的には、事業承継税制は贈与税・相続税の納税を猶予または延期する制度です。

事業承継税制には、基本的内容の「一般措置」と、期限付きの特例で、納税者に有利な「特例措置」の2つが存在しています。

事業承継税制には贈与税と相続税がある

事業承継税制には贈与税と相続税がある
事業承継税制では、贈与税と相続税を分けて、それぞれ個別に納税猶予を規定しています。このため対応する法律の条文も別です。ちなみに規定する法律は、租税特別措置法第70条の7から第70条の7の8までです。

問題は、事業承継税制の条文が非常に分かりにくいこと。法律に詳しくない方が読むと、「何を言いたいのかさっぱり分からない‥」と感じるのではないでしょうか。

この記事ではなるべくわかりやすく解説しますが、それでも理解が追いつかないかもしれません。記事を読んでもわからないことがありましたら、遠慮なく電話やメールでお問い合わせください。

本記事のおすすめの使い方は、まず読んで専門用語に触れておき、わからない点は税理士などの専門家に相談・質問しながら、利用を検討することです。

では、事業承継税制の解説を始めます。

事業承継税制は時限立法

事業承継税制は期限付きの租税特別措置法です。期限があるので、注意しなくてはなりません。ちなみに相続税の本法には、事業承継税制の規定は存在しません。

事業承継税制が制定された目的は、経営者が高齢化した中小企業が、円滑に事業を承継・継続できるよう支援することです。

事業承継税制設立の経緯

目的達成のために、まず平成20年5月に「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」が成立しました。(これ以下は「経営承継円滑化法」と略します。)

さらに翌年の平成21年4月には「経営承継円滑化法改正施行規則等」とともに税法が改正されて、事業承継税制が創設されました。

法改正のねらいは、中小企業の事業承継を支援して経営が継続できれば、地域経済の活性化と、中で働く人の雇用の維持が実現できるだろう‥ということにあります。

制度を利用するなら、単なる事業承継だけではなく、安定して継続することと従業員が働き続けられることが求められるわけです。

つぎに事業承継税制の適用を受けた場合に何が起こるかを解説します。

事業承継税制による贈与税の納税猶予と免除

事業承継税制には贈与税と相続税に関わるものがあります。まずはじめに、後継者に代表権を移行して自社株式を贈与する場合を考えます。

自社株式の評価額にもよりますが、株式を贈与された新経営者に対して、通常は贈与税が課されます。しかし贈与税を負担することは、事業承継の大きなネックです。ところが事業承継税制が適用されると、贈与に対する贈与税の納税が猶予されます。

事業承継税制が適用されるためには以下の要件を満たす必要があります。

【事業承継税制要件】

・制度対象の法人である
・亡くなった経営者が要件を満たす
・後継者が要件を満たす
・相続又は遺贈により後継者が取得する自社株式の数

この納税猶予は、以下のどちらかの場合まで継続されます。

納税猶予継続の条件

・求める要件を満たさなくなり、猶予の打ち切りが決定する
・一定の事実が発生して、全て又は一部の猶予が取り消される

納税猶予を適用してもらえないと、新経営者は、本来納めるべき贈与税と合わせて納税までの期間の利息である利子税も納めなければなりません。 納税猶予は、事業承継においてぜひ使いたい非常に有利な税制と言えます。

さらに、以下の要件を満たすと、猶予されていた贈与税が免除されます。

贈与税免除要件

(1)新経営者が贈与で取得した自社株式を、一定の期間経過後、次の後継者に事業承継税制で贈与した
(2)前経営者が死亡する前に後継者である新経営者が死亡した
(3)前経営者が新経営者よりも先に亡くなった

このうち(3)の場合を補足します。前経営者が新経営者より前に亡くなると、贈与された自社株式は、相続又は遺贈により受け渡されたものとみなされます。したがって、この自社株式に対しては(贈与税ではなく)相続税が課されることになります。

相続税の納税猶予制度

次に相続税の納税猶予制度について解説します。 贈与税の時と同様に、以下の要件を満たせば相続税の納税が、猶予されます。

【相続税の納税猶予要件】

・制度対象の法人である
・亡くなった経営者が要件を満たしている
・後継者が要件を満たしている
・相続又は遺贈により後継者が取得する自社株式の数が規定を満たしている

他に、以下の場合にも一定の手続きを取れば相続税の納税猶予が適用されます。

・新経営者が事業承継税制による納税猶予を受けた後継者である
・前経営者の死亡により、贈与された自社株式が相続または遺贈により取得したものとみなされた

つまり、贈与税の納税猶予が終了しても、続いて相続税の納税猶予が始まるということです。

このため、新経営者が取得した自社株式に対して発生する税金が、そのまま猶予され続けることになります(ただし税目は贈与税から相続税になり、税額も変わります。)

ただし相続税の猶予は、贈与税の猶予と同様に、一定の事実が発生すると打ち切りになります。もしくは全てまたは一部の猶予が取り消されます。

猶予が打ち切られたり取り消されたりすると、当初納めるべきだった相続税に応じて利息の利子税を納めなければなりません。この点も相続税と贈与税は同じで要注意です。

相続税の免除制度

もし次のような事態が起きると、猶予された相続税が免除されます。

【相続税免除の条件】

・新経営者が相続により取得した自社株式を一定の期間が経過した後に、さらに次の後継者に事業承継税制を使って贈与した
・新経営者が死亡した

つまり、事業承継税制を最大限に有効に使えば、自社株式の後継者への移動に関して、最終的には贈与税も相続税も納付することなく承継できるというわけです。

初期の事業承継税制の使いにくさ

創設当初の事業承継税制は、非常に使い勝手が悪いものでした。 たとえば、事業承継税制を利用しても、発行済議決権株式総数の2/3までしか猶予されませんでした。残り1/3に対しては、通常通り税金を払わねばならなかったのです。

さらに相続の場合、猶予される相続税割合は80%です。組み合わせると事業承継税制で猶予される税金は最大で約53%(2/3×80%)に過ぎません。節税効果はおよそ半分しかありません。

ほかにも規制がありました。事業承継税制を利用すると、承継後5年間は、平均で従前の雇用の8割を維持しなくてはならなかったのです。(年ごとに毎年8割以上を維持する)

この雇用維持の要件は、小規模な会社にとって非常に厳しいものです。もし従業員が5人の会社で2人退職し、欠員を補充できないとなると、たちまち満たされなくなる要件です。

恐ろしいことに要件を満たさなくなった場合、納税猶予は取り消されます。なおかつ本来納めなければならない贈与税・相続税、および利息の利子税を合わせて納付しなければなりませんでした。

厳しい経済状況や、代替わりによる経営環境の変化を思うと、雇用維持の確信が持てない後継者は多く、事業承継税制の利用頻度は非常に低いものにとどまっていました。

このように当初の事業承継税制は、中小企業の事業承継サポーターとして、国が期待した成果を上げているとは到底いえない代物でした。

事業承継税制「特例措置」の誕生

国は、平成30年度に事業承継税制を改正し、新たに特例措置を創設しました。

特例措置では、発行済株式の全てが事業承継税制の対象になります。これで相続時に納税猶予される株式の割合は100%となりました。また雇用の8割維持要件も実質的に撤廃されました。仮に雇用維持できなかった場合にも、理由を記載した書類を都道府県に提出し、一定の要件を満たせば、猶予税額を支払わなくてよくなったのです。

平成30年の改正でも、事業承継税制のデメリットが完全になくなったとは、言えません。しかし、中小法人の事業承継で事業承継税制を使うと、デメリットを上回るメリットが見込めるようになった、とは断言できます。

事業承継税制の従来の形である一般措置は今もなくなってはいません。しかし、これから事業承継税制を利用するにあたっては、特例措置だけ考えればよいでしょう。

次回、中小企業の事業承継【第6回】は、特例措置の具体的な要件や利用時の注意事項についてお伝えします。

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