生前対策は早くから始めよう

■生前対策は早くから始めよう

●2024年は相続税と贈与税の大改正の年

2024年は相続税と贈与税についての大改正の年となります。被相続人となられる方が生きている間に相続税対策をしておくことが今後ますます重要となってきます。そこで以下では、この、いわゆる生前対策について「先のばし」にせずに早めに対策を打っておくことの重要性や、そのポイントについて、いくつかの観点から述べたいと思います。

●はじめに、生前対策とは

なぜ相続税対策について「生前対策」が重要なのでしょうか。相続そのものは時間的には死亡と同時に発生します。時間的には「死亡⇐(同時発生!)⇒相続」となる訳です。ですので、そもそも生前にしか対策が打てないのです。なお細かく言えば相続税の申告書を税務署に提出しなければならない期限は原則として死亡後10か月以内となっており、この10か月の間に知恵を絞って相続税が少しでも安くなるように工夫をこらした申告書を作成して税務署に提出する、ということが出来る場合も、あるにはあります。しかし、このように死亡後に実行できる相続税対策には限りがあり実際のところは「殆ど無い」或いは「全く無い」と言ってしまっても過言ではありません。

以上の通り「相続」についての「対策」は「生前」に行なっておかなければ殆ど効果が無いと言え、その結果として、この「生前対策」が重要となってくる訳です。

なお以下では「生前対策」について案外、見落としがちであって、かつ重要な点について述べていきいと思います。なお、これは、あくまでも一般論ですので個別の事情によっては対策が変わってくる場合もあることに、ご注意ください。

●相続税対策は被相続人となられる方の意思がしっかりしている内にやっておく

相続税の生前対策などと言うと「自分は、まだまだ健康で丈夫だから、そんなことをする必要はない!」などと怒り出す人が結構、多くいるものです。確かに、その気持ちは分かるのですが、その考えは改めた方が良いと言えます。現実には、その逆で健康で丈夫な内に、やっておかなくてはならないのが生前対策なのです。

人間は誰でも歳を重ねると多かれ少なかれ頭がボケてくるものです。そして残念なことに「認知症」と診断される人が増えてくるのも事実です。一旦「認知症」と診断されれば現代の医学では、その進行を止めることは出来るのですが元の状態に戻すことは出来ないとされています。

一方、相続税対策の為に財産を移転したり新たに借入金をしたり建物を建築したりするには当然、そのご本人の明確な意思表示が必要です。ですので一旦、認知症と診断され、それにより意思能力が低下していると見られてしまうと有効に、これらの法律行為をすることが出来なくなる恐れがあります。

なお、その場合、本人に代わる代理人として成年後見人が選任されることもあります(民法843条)。しかし、この成年後見人という制度は財産の保全(ごく簡単に言えば本人に代わって本人の利益に沿うような形で財産の維持管理などを行うこと)を目的としているので相続税対策を目的とした財産移転などの法律行為は、そもそも、その職務の範囲外となり行うことが出来ません。

このような事態に陥ってしまわない為にも相続税対策は早めに行っておくべきなのです。

●生前贈与に伴う不安や心配の声もあるが、いろいろと知恵を絞ってみよう

会社を経営している方は、よく「生前の内に会社の株式を子供たちに贈与してしまいたいのは、やまやまだが、それをしてしまうと同時に権限も委譲しなければならない。しかし子供たちは、まだまだ経営者として未熟だ。とてもじゃないが、そんなことは出来ない。」などとおっしゃる方がいらっしゃいます。

また、お子様たちが経営者として既に一人前に育っていたとしても、その場合は、その場合で死ぬまで経営者としての権限を手放したくないと思って意固地になって自分の地位を手放そうとしない方も、いらっしゃいます。

このような場合には何か良い方法は無いものかと言えば実はあるのです。通常、株式は1株式ごとに全て平等に取り扱われますので多くの株式数を保有している人間が、その会社の実権を握ることになります。このシステムを前提として考えるならば確かに株式をお子様たちに贈与するならば、その会社の権限(=株主権)も移転してしまうことになります。

もし、そうはさせたくないと考えるならば第1に「議決権制限種類株式(会社法108条1項3号、同2項3号)」を発行して、これを贈与する、第2には単元株式数を高めに設定した「議決権種類株式(会社法188条3項)」を発行して、これを贈与する、という2つの方法が考えられます。

このように議決権が制限された株式に限って、お子様たちに譲ることにより会社の経営権については依然として、そのまま保持し続けるという「ウルトラテクニック」もあるのです。是非、ご検討ください。

次に子や孫に早くから現預金を贈与してしまうと「無駄遣い」をしてしまうかも知れないなどと心配し躊躇するあまり、なかなか、これに踏み出せない方もいらっしゃいます。その気持ちが高じて一応、形だけは贈与するのだけれども贈与された側(子や孫)の預金通帳を、ご自分で管理し続けてしまって、その子や孫に手渡さないということも、あるようです。しかし、このやり方は危険です。

このやり方では後々、税務調査により、その贈与は実体の伴わない形ばかりのものとして否認され相続税の追徴課税を受ける恐れがあります。では、どうすれば良いのかというと1つの方法としては、その贈与した現預金で、その子や孫に自ら保険契約者となる貯蓄性の高い生命保険に加入させるのです。そうすれば誰の目から見ても、その子や孫が、その現預金を利用して自ら保険運用していることになります。預金通帳を手渡してしまったら、その代わりに保険証券を預かっておきましょう。この場合、当然ですが加入する生命保険については元金割れが起こらないように注意することが肝要です。あくまでも支払った保険料以上の解約返戻金が見込める範囲の金額と期間で行うべき事となります。

以上の通り、いろいろと知恵を絞れば何らかの解決策はあるものです。

■暦年贈与と相続時精算課税制度が共に大改正

相続税と贈与税の納税制度には「暦年贈与」と呼ばれるものと「相続時精算課税制度」と呼ばれるものの2つがあります。ここでは、その仕組みについて深くは触れませんが皆さんが普通に「贈与」という言葉を使う場合は暦年贈与によって課税される贈与との趣旨で使っている場合が多いようです。

この暦年贈与は毎年、毎年その年に贈与を受けた金額に対する贈与税を納税することにより納税が完結するというもので極めて単純明快なものです(但し以下で触れるように相続発生前の一定期間における贈与については持ち戻しによる相続税課税があります)。

一方、相続時精算課税制度とは、その名の通り生前贈与の全てについて後々、相続が発生したときに遡って相続税を課税するという仕組みで贈与の際に既に納税していた贈与税があったならば、これと差し引き精算するという仕組みです。

そのどちらを使うかは贈与を受ける側の人間が選択することになりますが相続時精算課税制度を選択する場合には税務署に対して、その旨の届出をする必要があり(但し一定の条件があり、これを満たさないと選択できません)これをしない限りは「暦年贈与」を選択しているものとして取り扱われます。また一旦、相続時精算課税制度を選択したならば、もはや「暦年贈与」を再選択することは出来なくなりますので、この点にも注意が必要です。

今年この2つの制度について大改正がありました。

まず暦年贈与については死亡前3年間に限っては相続時精算課税制度と同様に相続税を課税し既払いの贈与税の金額とは差し引き精算するとの決まりであったものが今年以降の贈与については、この持ち戻し期間が7年間へと延長されました。すなわち今年以降の贈与については相続発生前7年間のものについては相続税が課税されることになります(但し一定の経過措置あり)。よって、せっかく生前贈与をしておいたとしても、この7年間に引っかかってしまうと節税効果が薄れてしまいます。暦年贈与は早くから行っておくことが今後ますます重要となってくる訳です。

次に相続時精算課税制度については、これまでは生前贈与の全てについて相続が発生したときに遡って相続税を課税するとされていたものを今年以降の贈与からは1年あたり110万円の基礎控除額が新設され毎年、毎年この基礎控除額の110万円までの部分については将来に亘って全く課税されないということになりました。この部分については先ほど述べた持ち戻しのような仕組みもないので極端に言えば亡くなる前日に110万円の贈与を行っていたとしても、それについては全く課税されることはないのです。よって、この部分だけを捉えれば暦年贈与より節税効果が高いと言えます。

このような大改正を踏まえると相続時精算課税制度を使おうとするならば、いつから使い始めるのかを含め早くから検討を進めておくべきであり、その意味でも生前対策については早くから手を打っておくべきこととなるのです。

●土地の調査は早めに

ここでは詳細な仕組みについては触れませんが一般に被相続人が所有する土地に賃貸住宅などの建物を建築しておくと相続税対策になる、と言われます。それだけを聞いて「ああ、そうなんだ。それならば、いずれ建物を建築しよう。」と思って、そのまま放置しておいて、いざ建物を建築しようと思ったところ思うような建物を建築することが出来なかったという事例が結構あります。

建物を建築するには法令上の制限があるからです。代表的な制限法令は建築基準法であり建物の用途による建築制限、建ぺい率制限、容積率制限、斜線制限、接道義務による制限などがあります。いざ建物を建築しようと思い立ったところ結局はダメだった、とならないように土地については事前に建築制限などについての調査をしておく必要があります。

税の専門家は一般に建築制限についてまではアドバイスをしてくれませんので注意が必要です。なお付言すると建築制限は変動します。現在、建築できる建物でも1年後、2年後には建築できなくなることがあります(←その逆もありますが)。よって建築が可能な内に建築をしておく、という視点も時には必要です(←当然ですが建築制限が厳格になったからと言って既に建築し終えた建物を取り壊す必要はありませんので建築制限の緩やかな内に早めに建築しておいた方が有利となる訳です)。

●会社の相続には節税以外の観点も重要

最後は少々、違った観点からのお話です。

被相続人となられる方が経営していた会社を相続するという場合もあるかと思います。この場合、具体的には、その会社の株式などの出資持分を相続することになります。そして、また、この場合、会社以外にも併せて他の何らかの財産を相続する場合もあるでしょう。

この場合、会社が、そこそこ知名度のある会社である場合には特に言えることですが後々、追徴課税を受けることのないように注意することが肝要です。もし後々、追徴課税を受けてしまったならばマスコミ等で「○○株式会社の相続 ○○千万円の追徴課税 ○○国税局!」などと大見出しで報道されることにもなり会社のイメージが急落してしまうことにもなりかねません。

「会社は公器」とも言われます。このような事態に直面すると、その会社は潰れないまでもイメージダウンによって売上が減少するなどして経営危機に瀕することにもなりかねません(特に一般競争入札、指名競争入札、随意契約などで公共的な事業を請け負っている会社では、これらの事業が受注できなく可能性もあります)。

またオーナーが相続税の追徴課税を受けたという事実は永久に社史に刻まれることにもなってしまいます。その会社で働いてもらっている従業員の方々も内心では「相続税をケチっているなんて何てケチな経営者なんだ。こんなケチな会社では働きたくはないもんだ。」と思い至って働く意欲が削がれてしまいます。相続税をケチって、これを少しでも安くすることに腐心するあまり却って会社の経営を危うくしてしまっては本末転倒です。

会社をステークホルダーなどから愛される立派な会社に育て上げることにこそ経営者は心を砕くべきであるのです。そして「相続税は適正・妥当な金額を支払うのだ。安易で安直な節税策は取らないのだ。」というくらいの心積もりでいた方が安全です。

このように会社を相続する場合には節税という観点と共に経営的な観点からも併せて考慮しておくべきであり、このように多角的な考慮の出来る経営者こそが真に優秀な経営者であると言えます。相続が近くなってから慌てて相続税対策を始めたりすると性急で安直な対策に傾きがちになり失敗の原因にもなってしまいます。そのような事態に立ち至らないようにする為にも長期的で戦略的な相続税対策を早くから行っておくことが会社の相続についても重要となってくる訳です。

なお話は少々、変わりますが会社の相続については「事業承継税制」という、やや特殊な制度(ここでは詳しくは触れませんが)が利用できる場合もあり、この制度を利用する為の条件は厳格ですが、もし利用できれば相続税や贈与税が全額、免除となる可能性もありますので併せて、ご検討ください。

●まとめ

以上ここでは相続税対策についての細かなスキームに入り込むことなく重要と思われる点を大まかに絞って列挙いたしました。ご参考になれば幸いです。相続税対策は早ければ早いほど良いと言えます。後手に回ると対策が取り辛くなります。そして少しでも疑問点があれば早めに解決しておくことが重要です。

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