家と相続税 - 亡くなった方の家はどのようなプロセスを経て、誰のものになるのか?

家と相続税

はじめに

ここでは家と相続税について述べます。亡くなった方が持っていた家の所有権を、その方が亡くなったことに起因して相続などにより取得すると相続税の課税対象となります。

そこで以下では、まず、そもそも亡くなったことに起因して家の所有権を取得するのは誰になるのかをご説明したいと思います。そして次に、そのようにして取得した家の所有権は相続税の課税上どのような財産評価額になるのかについてご説明します。

なお、ここでのご説明は家の「所有権」についてのみとなっております。借家権や配偶者居住権などの形態により家の使用権を取得する場合については別の機会にご説明いたします。

亡くなった方が持っていた家の所有権は、どのようなプロセスを経て一体、誰のものになるのか?

●相続

最も一般的なものは配偶者や子などの相続人が相続により取得するというものです。親が亡くなった場合に親が持っていた家を子が相続により取得するというのは、よくある話ですので改めて、ご説明するまでもない事だとは思います。

但し注意すべきことがあります。それは相続というものには原則として何らの手続きも必要がないという点です。よく「昨年、親が亡くなったんだが、まだ相続はしていないんだよ!」などと言っている人がいますが、これは、とんでもない間違いです。

相続というものは何の手続きも必要なく人が亡くなると、その瞬間から、その亡くなった人に帰属していた財産や借金などの殆ど全ての権利・義務が当然に相続人に移転しますので「亡くなったのに、まだ相続をしていない。」などと言うことは絶対に有り得ません。

それは、たとえ相続人が2人以上いて相続財産の分割についての話し合い(遺産分割協議)が、まとまらずに財産分けが進まない状態となっていたとしても全く同じです。この場合には単に相続人内部において具体的な取り分が決まらないだけのことであり相続人が共同(共有)で相続していることには変わりがありません。

相続というものは、このような性質のものですので、ご注意ください。

●遺贈

亡くなった方が遺言により遺贈をする旨の意思表示をしていた場合、その遺贈を受けることとなる方がその旨を承諾すると、その方(これを「受遺者」といいます。)が、その遺贈の対象となった財産の所有権などを取得します。よって家についての遺贈がなされれば家の所有権を受遺者が取得することになります。

なお、ここでは深くは立ち入りませんが遺贈には包括遺贈と特定遺贈の2種類があり包括遺贈は相続人以外の人にしか行えません。特定遺贈は相続人を含め誰に対しても行うことが出来ます。

このように相続によらずに遺贈によって家の所有権を取得する場合があります。

●死因贈与契約

遺贈と似たものに死因贈与契約というものがあります。これは「亡くなった時に贈与をする。」という契約です。死因贈与契約を締結しておいて亡くなると、その死因贈与契約の相手方が、その死因贈与契約の対象となった財産の所有権を取得します。よって家についての死因贈与契約がなされていたならば家の所有権を取得することになります。

●特別縁故者

当初から相続人が全く存在していなかったか存在していたとしても相続放棄等により相続人が不存在となってしまったという場合に遺贈も死因贈与契約もないならば裁判所の判断により特別縁故者(亡くなった方と特に縁があった方)へ、その亡くなった方の財産の全部又は一部が分与されることがあります。よって亡くなった方に家があったならば、その家の所有権が分与されることもあります。

●共有者

特別縁故者への財産分与がなされなかったか、なされたとしても、その後に財産が残った場合には原則として、その残った財産は国庫に帰属することになります。「国庫に帰属する。」とは平たく言えば「国の所有物になる。」ということです。

しかし例外的に、その財産の所有権が他人との共有になっていた場合には国庫に帰属することにはならず、亡くなった方の、その所有権の共有持分は残りの共有者に帰属することになります。

よって家の所有権が誰かとの共有になっていたならば、それは国の所有物とはならずに共有者の物となります。実は民法に、かような規定があることは、あまり知られていません。ご留意ください。

●まとめ

以上のように亡くなった方が持っていた家などの所有権を相続人などが取得するパターンには様々なものがあります。しかし現実には相続が一般的であり、その他のケースは、稀だとは思いますが・・・。

そして課税上は、これらの全てのパターンによる家などの取得は相続税の課税対象となります。(但し取得者が法人の場合に限っては相続税ではなく法人税の課税対象となります。)

家の相続税での財産評価額はどのようになるのか

それでは次に家の相続税での財産評価額は、どのようになるのかをご説明いたします。家の相続税での財産評価額は以下の通り賃貸をしている場合と賃貸をしていない場合とで異なってきます。

●賃貸をしている場合

この場合には、以下の計算式で算出します。

【固定資産税評価額×(100%-借家権割合30%×賃貸割合)×亡くなった方の持分割合】

家をまるまる一軒、賃貸している場合には賃貸割合は100%となります。

アパート経営をしているような場合の賃貸割合は亡くなった時点における、その稼働していた床面積の割合となります。具体的には【(貸部屋の床面積の合計-空き部屋の床面積の合計)÷貸部屋の床面積の合計】となる訳です。

ただし賃貸アパートの部屋の一部が一時的に空室の場合には、それは「空き部屋の床面積の合計」には含めないことができます。一時的な空室として認められるかどうかは下記要件を総合的に鑑みて判断します。

○各独立部分が課税時期前に継続的に賃貸されてきたものか。

○賃借人の退去後、速やかに新たな賃借人の募集が行われたか。

○空室の期間、他の用途に供されていないか。

○空室の期間が課税時期の前後の例えば1か月程度であるなど一時的な期間であったか。

○課税時期後の賃貸が一時的なものではないか。

なお「亡くなった方が賃貸に伴う不動産所得等の確定申告を怠っていた場合には、この財産評価額を用いることが出来なくなり、下記の賃貸をしていない場合における財産評価額を用いざるを得なくなって結局のところ、財産評価額が高くなってしまうことがある。」との注意喚起をしている解説が、たまに見受けられます。

しかしながら相続税の課税における財産評価額は、あくまでも、その財産の客観的な価値を示すものですので相続時の現況が実際に賃貸をしていたならば、そのような取り扱いを受けることはなく、ここで言う「賃貸をしている場合」に区分されます。つまり、この場合でも相続税の課税において不利益な取り扱いを受けることはない訳です。

しかし、この場合には相続税の確定申告や、それに伴う税務調査等によって亡くなった方が確定申告を怠っていたという事実が確認されて、過去の不動産所得等について追徴課税を受ける恐れがありますので注意は必要です。そして、この場合、亡くなった方の所得税の納税義務は原則として相続人に引き継がれます。(なお細かいことですが、この場合の追徴課税の税額は相続税の計算において債務(借金)として控除することは出来ます。)

●賃貸をしていない場合

賃貸をしていない場合とは普通に自分や家族などで使っている場合です。なお友人などの第三者に貸していたとしても賃料を取っていない場合には賃貸とはなりませんので、ここに含まれることになります。

この場合には【固定資産税評価額×亡くなった方の持分割合】となります。

建築中の家の場合には、どうなるのか?

家の建築中に、その注文者が亡くなった場合でも勿論、相続税の課税対象となります。その場合の財産評価額の計算式は以下の通りです。

【費用現価の額×70%】

「費用現価の額」とは、亡くなった日までにかかった建築費のことを指します。誰かとの共有により建築中であった場合には、上記の計算式に、その共有持分割合を乗じることになります。

なお厳密には建築中の家の所有権は通常、建設会社にあります。そして完成後に建築代金を全額支払い、その家の引き渡しを受けた段階で注文者の所有物となるのです。

従って冒頭で「所有権」についてのみのご説明と申し上げましたが、この点については厳密に申し上げると若干、異なりますので、ここでお断りをしておきます。

なお、この点における税務署の立場は、恐らく、建築中の家は建設会社の所有物ではあるけれども、注文者の気持ちや社会通念に照らし、また固定資産税評価額が通常、建築代金の70%程度になることなどを考慮して財産評価基本通達にて、このような取り扱いをするものと定めたものと推測されます。

建築中に支払った建築代金は、あくまでも前払金ですので、現金と同様に本来は、この前払金の額面金額が財産評価額となるところなのでしょうが、納税者の気持ちを汲んで、このような取り扱いとなっているものと考えられます。

この点のご説明は若干、蛇足ぎみですが、専門家として念の為にご説明させて頂きました。

最後に

以上を簡単にまとめます。

家などの持ち主が亡くなった場合には一般的には相続により相続人がその所有権を取得しますが、あまり見られないとは言うものの、法律上は、それ以外にも遺贈、死因贈与契約、特別縁故者への財産分与、共有者による持分の取得などの制度も用意されています。

そして、そのいずれのケースにおいても取得した方が法人ではなく個人の場合には相続税の課税対象となります。

その場合の財産評価額は賃貸をしている場合と、それ以外の場合とでは異なり、賃貸をしている場合には、その賃貸部分につき30%低くなります。

建築中の家の所有権は一般的には建設会社にありますが、その場合であっても亡くなった時点までの建築費の70%が財産評価額とされます。

なお「家と相続税」に関して「タワーマンション節税」という言葉を聞いたことがある方もいらっしゃるかと思います。これはタワーマンションを購入すると相続税の節税になるというものです。これについては別の機会にご説明したいと思います。

最後まで、お読み頂き有り難うございました。

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