相続のための土地評価入門【第5回】宅地の評価その2・不整形地補正と路線価方式補正

土地評価入門_不整形地

個人が所有する土地で多いのが宅地です。したがって宅地の評価は、相続税や贈与税などの税金額の計算で大きな意味を持ちます。

この宅地の評価にはいくつかの手法があります。前回の『土地評価入門【第4回】宅地の評価方法と価格調整』記事では、代表的な宅地評価方法である路線価方式を解説しました。

今回の土地評価入門【第5回】では、形がいびつな宅地の評価に使う不整形地補正について解説します。その後で、不整形地補正と併用可能な路線価方式の補正を追加で解説します。

それでは見ていきましょう。

1.不整形地補正とは

はじめに不整形地補正を解説します。不整形地補正を理解するには、整形地と不整形地の定義を知る必要があるので、見ていきましょう。

【整形地】

・正方形や長方形など整った形の宅地

【不整形地】

・土地の境界がギザギザ
・境界線があちこちで出っ張ったり引っ込んだりしている不整形な宅地

整形地と不整形地を比べれば、不整形地が所有者にとって使い勝手が悪く価値が低いことが想像できますよね。

路線価が同じだったとしても、土地の形状や傾斜の有無がその土地の使いやすさや利便性に大きく影響します。その結果土地の価値も変わるでしょう。

価値が同じではないのに、単純に路線価に地積を乗じて評価額を計算すると、課税の公平性を著しく欠きます。

そこで財産評価基本通達では、上記の要素を1㎡あたりの単価に反映させる補正をするよう定めました。これが不整形地補正です。

2.不整形地補正とは

財産評価基本通達では、不整形地を評価する場合に『特別な方法』を使って補正するよう指示しています。

【不整形地評価の特別な方法とは】

特別な方法とは、奥行価格補正から四方路線影響価格までの補正を反映させた1㎡当たりの価格を計算し、そこに補正を加える方法です。

不整形地のための特別な補正方法は、4種類あります。不整形地補正とは、この4種類のいずれかの方法を当てはめて、不整形地1㎡当たりの単価を出すことです。

このようにして不整形地補正を加えると、不整形地の評価額は、整形地よりも低くなります。

それでは4種の補正それぞれの計算方法を解説していきましょう。
(※ 国税庁 不整形地の評価 を元にした解説です。)

2-1.不整形地の補正計算その1 複数整形地に区分

不整形地の補正計算その1は、不整形地を複数の整形地に区分して計算する方法です。

以下の図をご覧ください。不整形地を複数の整形地に分けたものです。

不整形地補正1複数の整形地に区分
不整形地補正1複数の整形地に区分

以下の手順で、不整形地を複数の整形地に区分して評価します。

不整形地を複数の整形地に区分して評価する手順

(1)不整形地を整形地に区分
(2)区分した各整形地を自用地として評価計算
(3)評価計算の合算値を不整形地全体の地積で割る
(4)1㎡当たりの単価が出る
(5)1㎡当たりの単価に「不整形地補正率」をかける

2-2.不整形地の補正計算その2 奥行距離方式

不整形地の補正計算その2は、間口距離と奥行距離による補正を使う方法です。補正の手順は、以下のとおりです。

間口距離と奥行距離による補正

(1)不整形地の地積を間口距離で割り平均的な奥行距離を計算
(2)平均的な奥行距離と想定整形地の奥行距離を比べて小さい方の奥行距離を使う

不整形地の奥行距離は、パッと見ただけで決められるものではありません。したがって、上で挙げた手順で計算します。

下の図を見てください。奥行距離を計算するためのイメージ図です。

不整形地補正2奥行距離の計算
不整形地補正パターン2 不整形地の奥行距離計算のイメージ図

この図では、正面路線に面して「角が全て直角の四辺形」つまり長方形を点線で描いています。

図の状態

・長方形の中に不整形地が納まる
・長方形の中に不整形地が納まる

このように、不整形地がすっぽり中に入るよう不整形地の外側に描いた最小の長方形が想定整形地です。

こうして想定整形地を作成したら、以下の2つの値を比較します。

2つの値を比較

・不整形地の地積÷間口距離(平均的な奥行距離)
・想定整形地の奥行距離

2つを比べて小さい方がこの不整形地を評価する「計算上の奥行距離」となります。

2-3.不整形地の補正計算その3 近似整形地方式

続いて不整形地の補正計算その3を解説します。これは、不規則な形をした不整形地に似た形の整形地を想定し、そこから計算していく方法です。

不整形地補正3近似整形地
不整形地補正パターン3 近似整形地

似た形の整形地を想定し、そこから計算するやり方は次のとおりです。

(1)不整形地に似た形の整形地を設定
(2)設定した整形地1㎡当たりの単価に不整形地補正率を掛ける

不整形地に似た形の整形地を、近似整形地と呼びます。

ただし、不整形地の形と想定整形地の形があまりに違い過ぎるとこの方法は使えません。使えるかどうかの基準として、国税庁が紹介する事例を引用します。

近似整形地:

近似整形地は、近似整形地からはみ出す不整形地の部分の地積と近似整形地に含まれる不整形地以外の部分の地積がおおむね等しく、かつ、その合計地積ができるだけ小さくなるように求めます。

出典引用:国税庁 質疑応答事例 財産評価

つまり近似整形地による補正計算は『ほぼ長方形の土地に使う』とだけ考えていただければよいでしょう。

2-4.不整形地の補正計算その4 旗竿地

最後に、不整形地の補正計算その4です。その4は、いわゆる「旗竿地」に使う方法になります。

旗竿地とは:

旗竿地(はたざおち)は、公道に接する間口が極端に狭く、細長く延びる敷地の先に、周りを他人の土地に囲まれている袋地があるような形状の土地を指す表現で、土地の形状が旗竿のように見えることから、この名がある。

出典引用:ウィキペディア

間口が狭く奥に行くと広くなる形状の不整形地である「旗竿地」では、以下のやり方で補正計算します。

旗竿地の補正計算
(1)近似整形地を設定
不整形地の近似整形地を設定します
(2)隣接する整形地と近似整形地を合わせる
隣接する整形地と近似整形地をいったん合わせて土地評価します
(3)隣接する整形地の分を差し引く
合わせた土地評価から隣接する整形地の価額を差し引きます
(4)残額を地積で割る
差し引いた残額を不整形地の地積で割ります
(5)1㎡当たりの評価額算出
不整形地1㎡当たりの評価額が出ます
(6)不整形地補正率を掛ける
(5)の1㎡当たりの評価額に「不整形地補正率」を掛けます

「旗竿地」タイプの不整形地に使う補正計算その4は、その3の応用のような法です。ここで出てきた「不整形地補正率」については次で説明します。

3.不整形地補正率とは

不整形地補正率とは、不整形地の評価額を整形地よりも引き下げる割合のことです。次からは、不整形地補正率の種類と計算方法を解説します。

4.不整形地補正率は一定ではない

実は、不整形地補正率は一定ではありません。不整形地補正率は、以下の状況により変わります。

不整形地補正率に影響を与えるもの:

・地区区分
・地積区分
かげ地割合

参考:国税庁 付表5 不整形地補正率表

かげ地割合」については後で解説します。

4-1.不整形地補正率に差がある理由

国税庁が指定する不整形地補正率に差がある理由を考えてみましょう。

以下の2つの場所をイメージしてみてください。両方とも、土地の形は歪んでいたりいびつな形状をしていたりします。

不整形地のある場所で比較:

・商業ビル街
・一般の住宅地


2つを比べた時に、いびつな土地形状が原因で減少する土地の価値は同じでしょうか?

さらに、もう1パターン、別の事例をイメージして考えてみましょう。

以下2つの異なる大きさの不整形地を比べてみます。比べた時に、2つの土地の使いにくさの程度は同じでしょうか?

大きさの違う不整形地を比較:

・土地形状が複雑に入り組んだ不整形地で面積は小さい
・土地形状が複雑に入り組んだ不整形地で面積が非常に大きい

どちらのパターンを比較してみても、使いにくさの「程度」は同じではないですよね。だから不整形地補正率には差が作られているのです。

では次で不整形地補正率の使い方を解説します。2つの使い方があります。

4-2.不整形地補正率を使った評価額の計算

まずは通常の不整形地補正率を使った不整形地評価額の計算方法の解説です。

はじめに、不整形地の補正計算法(3項をご確認ください。4種類のどれかを使います)により、その不整形地1㎡当たりの価額を計算します。

1㎡当たりの価額が計算できたら、その不整形地の地積を地積区分表に当てはめます。(※地積区分表は国税庁が公表しており、こちらの付表4で確認可能です。)

・地積区分
・地区区分
・面積

上記の3つが揃うと、地積区分表でその土地が「A」「B」「C」のいずれの地積区分に該当するかわかります。

地積区分が特定できたら、次はその不整形地のかげ地割合を計算します。

かげ地とは:

かげ地とは不整形地に設定された想定整形地中の不整形地ではない部分を指します。

かげ地割合とは、「想定整形地の中にかげ地がどれくらい含まれるか」です。
かげ地割合が大きいほど、その宅地の評価額は低くなります

かげ地割合は次の計算式で計算します。

かげ地割合計算

・地積区分
・かげ地割合

上記2点が特定できたら不整形地補正率表を確認しましょう。不整形地補正率が決まります。

こうして不整形地補正率を確定したら、それを不整形地1㎡当たりの価額に掛けます

不整形地1㎡当たりの価額は、不整形地の補正計算(4種)のどれかを使って、事前に計算したものです。(不整形地の補正計算その1〜その4を見てください)

以上が、不整形地補正率を使った不整形地補正の計算方法(通常)です。

宅地が不整形地ならば、ご紹介した計算式を使って評価するのがよいでしょう。ただし、違う方法を使った方がよい場合がります。それは、土地が旗竿地である場合です。

次で旗竿地に使える特例について解説しますので、引き続きお読みください。

4-3.旗竿地には特例がある

対象の宅地が旗竿地なら間口狭小補正奥行長大補正が使えることが多いです。そして間口狭小補正や奥行長大補正が使えると、宅地の評価額を大きく減額できる可能性があります。

つまり、不整形地補正率を使った不整形地補正計算より、間口狭小補正や奥行長大補正を使って計算する方が減額幅が大きくなる可能性があるのです。

したがって不整形地を評価するときは、旗竿地になるかどうかをまず確認しましょう。その後で間口狭小補正や奥行長大補正の適用可能性を確認しましょう。

さて、ここで出てきた間口狭小補正奥行長大補正については後で解説します。

次に解説するのは、不整形地補正と併用することもできる路線価方式の補正についてです。

5.不整形地補正と併用可能な路線価方式の補正4種

土地の種類によっては、路線価方式での宅地評価で特別な補正ができるものが4種類あります。これらの路線価方式の補正は不整形地補正との併用が可能です。

【路線価方式とは】

路線価方式とは、路線価を使って宅地の評価額を計算する方法です。

路線価は、道路(路線)に面する宅地1㎡当たりの価格のことです。路線価は国税庁が定義します。

上記の路線価方式の4種の補正について順番に解説します。

5-1.規模格差補正

はじめに規模格差補正を解説します。規模格差補正は、地積の大きい宅地に適用可能です。

大規模な宅地の所有者には、以下の負担があるため、評価を引き下げる必要があるために、規模格差補正が適用されます。

5-1-1.規模格差補正の理由

規模格差補正の理由は以下のとおりです。大規模な宅地開発においては、以下3種類の負担が発生します。

規模格差補正の理由1

大規模な宅地の開発分譲では、土地の一部を道路や公園用地にする必要がある。こうした土地は所有者に収益を生まず負担になる。

規模格差補正の理由2

大規模な宅地の開発分譲では、上下水道の敷設・整備工事などの負担が生じる。

模格差補正の理由3

大規模な宅地の開発分譲では、所有者は以下のリスクを負う。
・販売期間の長期化
・売れ残りが発生
・資金の借入

大きな土地の開発には、小規模な土地の開発にはない負担が生じるのです。したがって追加負担の分、土地評価の価額を引き下げるというのが規模格差補正の理由になります。

つづいて規模格差補正が適用される土地の要件を解説します。

5-1-2.規模格差補正の要件

規模格差補正の要件を満たすためには、下記の条件に当てはまらねばなりません。

・三大都市圏の500㎡以上の宅地である

または

・三大都市圏以外の1,000㎡以上の宅地である

ちなみに三大都市圏とは、以下のエリアを指します。

・首都圏
・近畿圏
・中部圏

三大都市圏とは、首都圏、近畿圏、中部圏のことです。

規模格差補正の要件に当てはまるためには、上記要件を満たし、なおかつ下記の要件も満たさねばなりません。

・普通商業・併用住宅地区である

または

・普通住宅地区である

上記の要件を満たして適用可能になる規模格差補正は、不整形補正と併用することが可能です。

参考:国税庁 1 地積規模の大きな宅地の評価

5-2.無道路地の補正

つづいて無道路地の補正を解説します。無道路地とは、道路に接していない宅地のことを言います。

無道路地の評価では、旗竿地の評価で使う方法を応用します。ただし、無道路地には旗竿の「竿」に当たる部分が存在しません。そのため、はじめに「幅員2mの通路があると仮定するのです。

この仮定の下に、「間口狭小補正率」や「奥行長大補正率」を計算するようにします。(幅員2mの通路を仮定する理由は、建築基準法等で建築物を建築するのに必要だからです。)

さらに、無道路地を不整形地補正して計算された評価額から通路を作るための費用を指し引きます。通路を作る費用は、正面路線の路線価 ✕ 通路部分の地積で計算します。この費用の上限は、評価額の4割相当です。

5-3.間口狭小補正

つづいて間口狭小補正を解説します。間口とは、宅地が道路に接している部分の長さを指します。間口が狭い宅地は、使い勝手が悪いです。

したがって、間口の狭さに起因する使い勝手の悪さを宅地の評価額に反映することができます。間口狭小補正とは、間口が狭い宅地の評価に加える補正のことなのです。

以下が間口狭小補正の計算方法です。

間口狭小補正の計算式

1㎡当たりの宅地の価額 ✕ 間口狭小補正率

間口狭小補正率は間口狭小補正率表に記載されており、地区区分ごとに数値が変わります。

間口狭小補正率

間口狭小補正率

出典:国税庁 付表6

間口狭小補正率を適用することで、土地の評価額を下げることが可能です。

5-4.奥行長大補正

つづいて奥行長大補正を解説します。奥行長大補正とは、間口距離に比べて奥行が長い宅地の評価に加える補正です。「間口距離に比べて奥行が長い宅地」の使い勝手は良くありません。

したがって奥行長大補正の条件を満たす宅地については、評価額を下げられます

奥行長大補正の条件を満たす宅地の評価計算式は、以下のとおりです。

奥行長大補正の条件を満たす宅地の評価計算式

1.奥行距離 ÷ 間口距離
2.1の計算結果を奥行長大補正率表に当てはめて補正率を見つける
3.該当する補正率を宅地1㎡当たりの価額にかける

奥行長大補正率はこちらでご確認ください。

奥行長大補正率

出典:国税庁 付表7

5-5.不整形地補正・間口狭小補正・奥行長大補正の併用

不整形地補正・間口狭小補正・奥行長大補正は、組み合わせて適用することが可能です。

ただし、不整形地補正と奥行長大補正は併用できません

不整形地補正と奥行長大補正は併用したい場合、適用可能な組み合わせは以下の2つになります。

・不整形地補正率 × 間口狭小補正率
・奥行長大補正率 × 間口狭小補正率

(※最小値は0.60)

5-6.がけ地補正

つづいてがけ地補正を解説します。がけ地について国税庁は次のように定義しています。

がけ地とは

がけ地等を有する宅地とは、平たん部分とがけ地部分等が一体となっている宅地であり、例えば、ヒナ段式に造成された住宅団地に見られるような、擁壁部分(人工擁壁と自然擁壁とを問いません。)を有する宅地です。

出典引用:国税庁 質疑応答集

一部が、がけ地になっている宅地は平らな宅地に比べると使い勝手が悪いです。したがって「がけ地補正率」を用いて評価額を引き下げられます

がけ地補正率は、以下の2つの要素を、がけ地補正率表に当てはめて計算します。

がけ地補正率の2つの要素

・がけ地の斜面は東西南北のどの方向を向いているのか
・総地積中がけ地の地積が占める割合

5-7.特別警戒区域補正

つづいて特別警戒区域補正を解説します。

土地の一部に土砂災害の恐れがあり、土砂災害特別警戒区域に指定されている場合は、評価額を減額補正できます。

減額の計算式は以下のとおりです。

特別警戒区域補正の減額計算式

1.その宅地の総地積に土砂災害特別警戒区域が占める割合を計算
2.計算した割合値を特別警戒区域補正率表にあてはめる
3.あてはめると補正率がわかる
4.補正率を宅地1㎡当たの価額に掛ける

この手順で計算して土地の評価額を引き下げることが可能です。

参考: 国税庁 別添 土砂災害特別警戒区域内にある宅地の評価

6.まとめ

最後までお読みいただきありがとうございます。相続のための土地評価入門【第5回】でした。

土地評価入門【第5回】の内容は、路線価方式の宅地評価に適用して、評価額を下げることができる形状や傾斜による各種補正について解説しました。

次回【第6回】は、私道・借地を含む宅地の評価について解説します。

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