相続のための土地評価入門【第3回】農地・山林・原野・牧場・池沼・鉱泉地・雑種地の評価
土地評価入門の第3回です。これまでの第1回、第2回では土地評価の基本を解説しました。第1回、第2回を読んでざっくりと「なるほど、土地はそんな感じで評価されるんだ」と感じていただければ嬉しいです。
第3回以降は、財産評価基本通達における地目の評価方法を解説していきます。ちなみに最も複雑な地目は宅地です。そこで宅地の解説は後に回します。
今回【第3回】でお伝えするのは、比較的わかりやすい宅地以外の土地の評価方法です。それでは解説していきます。
1.宅地以外の土地の種類
宅地以外の地目を挙げると、以下のものがあります。
宅地以外の地目
●農地
●山林
●原野
●牧場
●池沼
●鉱泉地
●雑種地
以上が宅地以外の地目です。それではいちばん上の農地から順に解説します。
2.農地の評価方法
農地の評価について理解するには、農地の定義の理解が必要です。まずは農地の定義を解説します。
2-1.農地の定義
不動産登記事務取扱手続準則第68条において、農地は以下のように定義づけられています。
農地の定義
・田は農耕地で用水を利用して耕作する土地
※不動産登記事務取扱手続準則第68条(Wikibooks)より引用
・畑は農耕地で用水を利用しないで耕作する土地
用水を使うかどうかで、「田か畑か」が決まります。
2-2.農地の4分類
農地の評価にあたっては、以下の4種類に農地を分類します。
・純農地
・中間農地
・市街地周辺農地
・市街地農地
以上の4種類です。これらをまとめて財産評価基本通達では農地と称しています。
では4種の農地について、それぞれ見ていきましょう。
2-2-1.純農地
純農地は、生産性が高く宅地への転用が難しい農地のことです。
2-2-2.中間農地
中間農地は、許可を得れば宅地への転用が可能な農地のことです。
2-2-3.市街地周辺農地
市街地周辺農地は、鉄道の駅から比較的近いなど、市街化傾向の高い地域にある農地です。
2-2-4.市街地農地
市街地農地は、市街地にある農地のことです。市街地の内の中には生産緑地に指定された農地もあります。生産緑地に指定された農地の評価は別の計算式が必要になります。
農地を相続・贈与する時には、この4つの農地のうち、どれに該当するかを判定しなければなりません。
2-3.農地種類の判定法
農地の区分種類を確認するには、国税庁が発表している評価倍率表を見ればよいです。(国税庁・評価倍率表の見方はこちら)これは実務的で簡易な判定方法になります。他にフローチャート方式で判定する方法もあります。
2-4.農地の評価は倍率方式を使う
農地の評価方法は、原則的に倍率方式を使います。倍率方式とは、以下のような計算方式です。
純農地・中間農地については、倍率方式による上記の計算式で、農地の評価額を算出します。
2-4-1.市街地周辺農地の評価額
市街地周辺農地の場合は、純農地・中間農地とは異なる評価額のつけ方をします。
市街地周辺農地の場合は、その農地が市街地農地であるものとして評価します。具体的なやり方は、算出結果の100分の80(80%)を評価額とする方法です。
2-4-2.市街地農地の評価額
次に市街化区域以外にある市街地農地について解説します。市街地農地の場合は、(宅地)比準方式を用います。
具体的な方法は、以下の財産評価基本通達40に記載されているので、ご参照ください。
財産評価基本通達40
その農地が宅地であるとした場合の1平方メートル当たりの価額からその農地を宅地に転用する場合において通常必要と認められる1平方メートル当たりの造成費に相当する金額として、整地、土盛り又は土止めに要する費用の額がおおむね同一と認められる地域ごとに国税局長の定める金額を控除した金額に、その農地の地積を乗じて計算した金額によって評価する。
出典引用:財産評価基本通達40
財産評価基本通達40の内容を言い換えると、次のようになります。
- (1)1平方メートル当たりの評価を算出
- まず、その農地が宅地であるとして1平方メートル当たりの評価を算出する
- (2)1平方メートル当たりの造成費を差し引く
- 算出額から、その農地を宅地に転用するのに必要な1平方メートル当たりの造成費を差し引く
- (3)農地の面積を乗じて評価額を算出
- 差し引いた金額に、その農地の面積を乗じて評価額を算出する
要約すれば、その農地が宅地だった場合の金額から、宅地転用にかかる造成費などを差し引いた金額を評価額とするということです。
2-4-3.生産緑地の場合
生産緑地とは、生産緑地法で、生産緑地に指定された土地です。生産緑地の評価額は、その農地が生産緑地でないものとして算出した金額から、一定の割合を控除した金額になります。
2-4-4.農地の評価額の考え方
耕作権、永小作権等、区分地上権等の対象の農地は、自由な利用が制限されています。したがって、自ら利用する土地(自用地)としての農地評価額から、各種権利の評価額を控除した金額が、その農地の評価額となる仕組みです。
3.山林の評価方法
次に、山林の評価方法を解説します。不動産登記事務取扱手続準則第68条において山林は、耕作の方法によらないで竹木の生育する土地と定義づけられています
3-2.山林は3種類
山林は以下の3種類に分類できます。
【山林の種類】
・純山林
・中間山林
・市街地山林
区分基準は農地の場合と似ています。
3-2-1.純山林
純山林とは、市街地から離れていて周辺の宅地の評価額の影響を受けない山林のことです。
3-2-2.市街地山林
市街地にあって周辺宅地の評価額の影響を受ける山林が市街地山林です。
3-2-3.中間山林
純山林と市街地山林の中間にある山林が中間山林です。
3-3.純山林と中間山林の評価方式
純山林と中間山林の評価には倍率方式を使います。対象の山林の固定資産税評価額に、評価倍率表に記載された倍率を掛けて評価額を算出する方法です。
3-4.市街地山林の評価方式
市街地山林のうち、評価倍率表に評価倍率が定められているものについては倍率方式で評価します。
3-4-1. 宅地への転用が見込めない市街地山林の評価
宅地への転用が見込めない市街地山林は、近隣の純山林の価額に比準した評価を行います。(近隣の純山林の価額に準じて設定された価額での評価)
3-4-2.宅地への転用が見込める市街地山林の評価
宅地への転用が見込まれる市街地山林は、市街地農地と同様に、宅地比準方式で評価します。
具体的には、以下の手順で計算して評価額を計算します。
- (1)1平方メートル当たりの評価を算出
- 対象の山林が宅地であるとして1平方メートル当たりの評価を算出
- (2)1平方メートル当たりの造成費を差し引く
- 対象の山林を宅地に転用するのに必要な1平方メートル当たりの造成費などを差し引く
- (3)山林の面積を掛けて評価額を算出
- (2)の金額に対象の山林の面積を掛けて評価額を算出
3-5.特別な山林の評価
つづいて、特別な山林の評価を解説します。
3-5-1.保安林の評価方式
山林の中でも「保安林」は特別で扱いが異なります。
保安林は森林法により、土地の利用や立木の伐採に制限が加えられているからです。
保安林を倍率方式で評価する場合は、立木について所定の算式で計算した一定金額を控除します。そして控除後の金額額を山林としての評価額とする方式になります。
3-5-2.特別緑地保全地区内にある山林の評価方式
特別緑地保全地区内にある山林は、通常の山林として評価計算した金額の8割を控除します。そして控除後の金額が、その山林の評価額になります。
3-5-3.賃借権、地上権の対象の山林
賃借権や地上権の対象である山林は、自用地としての評価額から、各種権利の評価額を控除します。そして控除後の金額が、その山林の評価額になります。
4.原野・牧場・池沼の評価方法
つづいて原野・牧場・池沼の評価の方法を解説します。原野・牧場・池沼の評価額の算出方法は同じなので、3種を合わせて解説します。
4-1.原野の評価方法
原野の評価方法の解説です。
4-1-1.原野とは
原野とは、不動産登記事務取扱手続準則第68条において「耕作の方法によらないで雑草、かん木類の生育する土地」と定義づけられています。
出典引用:不動産登記事務取扱手続準則第68条 – Wikibooks
4-1-2.原野の3分類
原野は農地や山林と同様に、評価にあたっては以下の3種類に分類します。
【原野の3分類】
・純原野
・中間原野
・市街地原野
4-1-3.純原野とは
純原野は市街化調整区域外に存在する原野のことを言います。
4-1-4.市街地原野とは
市街地原野は、市街化区域内に存在する原野のことを指します。しかし、市街化調整区域内に存在していても、市街地原野にならない原野があります。
4-1-5.中間原野とは
現況が以下で、宅地への転用が比較的簡単に行えると判断される場合は、中間原野として評価を行います。
・大きな公道が通っている
・周辺地域の宅地化が進んでいる
4-1-6.純原野と中間原野の評価
原野の評価は山林に準じます。したがって、純原野と中間原野は倍率方式で評価します。
4-1-7.市街地原野の評価
市街地原野は倍率方式か(宅地)比準方式によって評価を行います。
4-1-8.特別緑地保全地区内の原野および賃借権・地上権対象の原野の評価
以下の原野の評価は、山林に準じます。
・特別緑地保全地区内にある原野
・賃借権、地上権等の対象となっている原野
4-2.牧場の定義
牧場は、不動産登記事務取扱手続準則第68条において家畜を放牧する土地と定義づけられています。
4-3.池沼の定義
池沼は、不動産登記事務取扱手続準則第68条においてかんがい用水でない水の貯留池と定義づけられています。
4-4.牧場と池沼の評価方法
牧場と池沼は、財産評価基本通達の中で、「原野の評価方法に準ずる方法で評価する」と定められています。(出典:財産評価基本通達61および62)
国税庁>財産評価基本通達61>牧場及び牧場の上に存する権利
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sisan/hyoka_new/02/12.htm
国税庁>財産評価基本通達62>池沼及び池沼の上に存する権利
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sisan/hyoka_new/02/12.htm
5.鉱泉地の評価方法
つづいて、鉱泉地の評価方法を解説します。
5-1.鉱泉地とは
鉱泉地は、不動産登記事務取扱手続準則第68条では、鉱泉(温泉を含む)の湧出口及びその維持に必要な土地と定義づけられています。
それでは鉱泉とは何でしょう。
5-2.鉱泉とは
鉱泉について、環境庁は以下のように定義しています。
鉱泉とは
鉱泉とは、地中から湧出する温水及び鉱水の泉水で、多量の固形物質、またはガス状物質、もしくは特殊な物質を含むか、あるいは泉温が、源泉周囲の年平均気温より常に著しく高いものをいう。
出典引用:環境庁公開の鉱泉分析指針(平成26年改訂)>1-1
5-3.鉱泉地≦温泉
鉱泉地のイメージとして、概ね「温泉のようなもの」と考えていただいてよいでしょう。
しかし、厳密に言えば鉱泉地の範囲は温泉より狭いです。というのも、温泉法が規定する温泉は、鉱泉の定義より広いからです。
以下の温泉法の文章を見てください。この記述によれば、温泉とは以下の定義のものになります。
温泉とは
『温泉』とは、地中からゆう出する温水、鉱水及び水蒸気その他のガス(炭化水素を主成分とする天然ガスを除く。)で、別表に掲げる温度又は物質を有するものをいう。
出典引用:温泉法第2条第1項
鉱泉の定義と比較すると、温泉の定義の方が緩やかです。
つづいて、こうした鉱泉地の評価について解説します。
5-4.鉱泉地を倍率方式で評価する場合
評価倍率表に評価倍率が記載されている鉱泉地については、倍率方式による評価を行います。
5-5.鉱泉地を倍率方式を使わず評価する場合
評価倍率の記載されていない鉱泉地については、次のように計算します。
手順としては、初めにその鉱泉地の固定資産税評価額を出し、次にその金額に以下の計算式で算出される割合を掛ける、というものになります。これが倍率方式を使わない鉱泉地の評価額計算の手順です。
次に、上の方法で計算したた「割合」を用いて評価額を出します。
以上の手順により、鉱泉地の評価額が計算できます。ご紹介した計算式を単純化すると以下のようにまとめられます。
鉱泉地の評価計算方法
鉱泉地の固定資産税評価額 ✕ その鉱泉を利用する宅地の評価額を反映した一定割合
5-6.鉱泉地を営利利用しない場合の評価
鉱泉地から湧出する温泉を旅館などの事業に利用しない場合は、一定割合を控除して評価額を決めます。
5-7.温泉権・引湯権が設定されている場合の評価
温泉権や引湯権が設定されている場合は、その権利の評価額を控除して鉱泉地の評価を決めます。
6.雑種地の評価方法
つづいて雑種地の評価を解説します。
6-1.雑種地とは
雑種地とは、不動産登記事務取扱手続準則第68条において「以上のいずれにも該当しない土地」と定義づけられています。
つまり、今回ご説明した地目の土地と次回ご説明する宅地以外の土地は全て、雑種地となるわけです。
財産評価基本通達には、雑種地の評価方法について以下のように記載されています。
【雑種地とは】
原則として、その雑種地と状況が類似する付近の土地についてこの通達の定めるところにより評価した1平方メートル当たりの価額を基とし、その土地とその雑種地との位置、形状等の条件の差を考慮して評定した価額に、その雑種地の地積を乗じて計算した金額によって評価する。
出典引用:財産評価基本通達82 雑種地の評価
6-2.市街地にある雑種地の評価
市街地にある雑種地の場合は、宅地としての1平方メートル当たりの評価から造成費などを差し引いた金額に地積を掛ける「(宅地)比準方式」を使うのが一般的な評価方法です。
6-3.市街地にない雑種地の評価
市街地以外の雑種地で、周辺に宅地がなく農地や山林・原野に囲まれている場合は、以下を用いた比準方式を使うのが一般的な評価方法です。
・純農地
・純山林
・純原野
また上記の方式を使わず宅地の比準方式で算出する場合もあります。この場合は評価をさらに減額する「しんしゃく割合」を掛けて評価額を算出します。
6-4.例外的な雑種地
例外的な雑種地についてご紹介します。以下のような土地についてです。以下の用途の土地には汎用的な評価法はなく、個別に評価方法が定められます。
・ゴルフ場用地
・遊園地等用地
-遊園地
-運動場
-競馬場
-その他これらに類似する施設の用に供されている土地
・鉄軌道用地
・文化財建造物である構築物の敷地の用に供されている土地
6-5.控除のある雑種地
賃借権・地上権等の対象となっている雑種地は、自用地としての評価額から各種権利の評価額を控除した金額を、その雑種地の評価額とします。
7.まとめ
最後までお読みいただきありがとうございます。以上、長くなりましたが宅地以外の地目を持つ土地の評価方法についての概要を解説しました。
今回解説した地目には以下のものがありました。
・農地
・山林
・原野
・牧場
・池沼
・鉱泉地
・雑種地
次回【第4回】は、相続で土地を扱う多くの方にとって最も切実に感じられるであろう宅地の評価方法を解説します。
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