【第1回】相続税の節税方法をわかりやすく解説!

これから何回かに亘って相続税の節税について述べていきたいと思います。誰しも税金は少なくて済むものならば、そうしたいと考えるのが人情だと思います。また法的に言っても脱税は犯罪であり絶対にしてはいけませんが節税は合法的なものです。

相続税の節税には幾つかのポイントがありますが、今回の第1回目は「相続財産を減らす」という視点を軸に述べたいと思います。これに引き続いて他の視点・方法についても述べていきたいと思います。

ところで専門家の間では行き過ぎた節税を租税回避と呼び一般的な節税とは区別して考えられています。しかし節税と租税回避の境界は曖昧でありハッキリとした線引きがある訳ではありません。

今後どこかで、この租税回避と呼ばれるものにも若干、触れたいと思っています。

生前贈与を活用する!

ごく一般的な贈与(暦年贈与)

「相続財産を減らす」というのは何も税務署に見つからないように現金や金の延べ棒などの財産を世間から見えない場所に隠してしまう(隠し財産を作る)というようなものではありません。それでは脱税になってしまいます(笑)。

ここで言う「相続財産を減らす」というのは大きくは相続の発生時まで全ての財産を保有し続けるのは避けて予定される相続人などに生前のうちから贈与をしておくというものです。これにより相続が発生した時点での相続税を抑えることが出来ます。

但し贈与には別途、贈与税という税金が課税されますので贈与税を相続税よりも低く抑えることがポイントとなります。そうでないと却って相続税として税金を納めるよりも高い税額になってしまい節税にはなりません。

贈与税には1年間に110万円の基礎控除額(非課税枠)があるので毎年この金額以内に抑えて年数をかけて少しずつ贈与をしていけば贈与税が課税されることはありませんので、この1年間に110万円という金額が一つの指標となります。

注意すべき点としては税務署に対して「確実に贈与があった。」と説明することの出来る証拠ないしは実体を備えておくべきことです。例えば不動産(なお不動産は一般的には高額なので110万円相当の持分ないしは一部を分筆しての贈与となるでしょう。)、船舶、自動車、ゴルフ会員権、リゾート会員権、株式などのように所有者や権利者の氏名を登記や登録などによって明らかにする手段が用意されている財産については、それによって、きちんと名義を変更しておくことが肝要です。

そのような手段が用意されていない財産、例えば現金、貴金属、宝石、絵画、動植物、営業(商売)用財産などについては贈与契約書を作成しておくという方法が有効です(なお、預金には名義がありますが現金と同一視できる程度に流動性が高いので、預金は現金と同様に、ここに含めてお考え下さい)。但し贈与契約書は後から、いくらでも偽造することが出来てしまう為それだけでは税務署に対しての説明としては確実とは言えません。

よって出来れば贈与契約書は公証人役場で公正証書として作成するか、公証人役場で確定日付を押印しておくことが望まれます。それには多少なりとも費用がかかってしまいますので「そこまでお金をかけるのはどうも・・・。」と思われる方は贈与契約書を作成したら、その贈与契約書に記載した契約日以降の近接した日の新しいピカピカな新聞記事などと一緒に1枚の写真に収めておくというのも一法です。そうすれば後から偽造したものだと疑われることはないでしょう。

また裏技的な方法として郵便局で消印を押してもらうという方法もあります。あまり知られてはいませんが郵便局は郵便を出さなくても郵便を発送する際の最低料金(63円)以上の切手さえ貼ってあれば、どんな書類にでも消印を押してくれますので、これを利用して日付を証明することが出来ます(貼った切手は使えなくなってしまいますが。)。

但し最後の2つは公証人役場での公正証書や確定日付より証明力は落ちてしまいますが何もしないよりは良いと言えます。なお最近、普及し始めた「電子契約」を用いる方法でも可能です。話が日付の証明の件で少々それてしまいましたが(笑)話を元に戻します。

この方法を使ったとしても被相続人の亡くなる前3年以内の贈与については(贈与税の大小にかかわりなく)相続とみなされて、それにより贈与された財産も相続財産に含めたところで相続税額が計算され、もし既に納めた贈与税額があったならば、これと差し引き精算する仕組みになっていますので、この場合には上で意図したような節税効果はありません。

そればかりか、この場合には却って税額が高くなってしまう可能性も孕んでいます。すなわち、この場合は結果として相続税が課税される訳ですが、その財産評価額については相続発生時ではなく贈与のあった時点での財産評価額を用いることになりますので贈与があったときから相続発生時までに財産評価額が下がった場合には結果として税額が高くなってしまい「相続まで待てば良かった。」と嘆くことにもなりかねません。ですので、このように生前贈与を活用する場合には、なるべく財産評価額が一定か上昇傾向にあるものを選択して贈与を行うことが、お勧めです。

なお、この亡くなる前3年以内の贈与が相続とみなされるのは、その贈与を受けた相続人が相続財産を取得した場合に限られ、相続発生後の遺産分割により相続財産を全く取得しないこととした相続人には適用されないことになっています。しかし現実にそのような相続人がいるとは思えません。いわゆる形見分けとして洋服1枚、アクセサリー1個でも分け与えられれば、それは法律上は相続財産の取得となりますので全く何も相続財産を取得しないということは現実には滅多にないでしょう。ただ税務署は、そこまで細かいことを言ってくることはないと思われるので、目ぼしい相続財産さえ取得しなければ何も取得しなかったことになるのだと思います。また、この場合の「相続財産の取得」には「生命保険金や死亡退職金などのみなし相続財産の取得」や「相続税の非課税財産の取得」も含まれますので注意が必要です。

そしてまた更に注意があります。それは、たとえ、この方法により贈与をした形式を整えていたとしても実体を伴わなければ税務署は否認してくる場合があるということです。つまり名義だけを変更したり贈与契約書だけを作成しただけで依然として、それらの財産を被相続人が使用・管理していたり収益の用に供していたり極端な場合には贈与を受けたことになっていた人ですら贈与を受けたことになっていた事実を知らなかったというような場合には、その贈与は実体の伴わない架空のものとして否認される恐れがあります。よって贈与した財産は、きちんと贈与を受けた人の管理下に置くようにしなければならないということが重要となります。特に親から未成年者への贈与の場合に「贈与したことを教えてしまうと教育上良くない。」といったもっともらしい理由で、その未成年者において贈与を受けた認識がないことを正当化しようとする人がいますが、そうしたケースで例えば現預金の贈与の場合「教育上、問題がなくなる成人に達した際に預金通帳と印鑑を渡す」こととした場合、その成人に達したときの贈与となり、それまでは、いわゆる名義預金とされてしまうことが多く見受けられます。よって、たとえ贈与の相手方が未成年者であっても、きちんと贈与の事実を知らせた上で、通帳と印鑑などの贈与した財産の管理についても出来るだけ未成年者本人にやらせることが重要となってきます。

なお贈与があったことについて税務署に確実に説明する為に敢えて毎年、基礎控除額110万円を少し超えた金額での贈与を行って贈与税の確定申告書を提出して贈与税を少しだけ納めておき、その確定申告書の控えを証拠として保存しておく、という方法も効果的です。きちんと贈与税の確定申告書を提出し税務署がそれを受け付けている以上、後になってから税務署自身がその贈与を否認するということは通常は有り得ないからです。但し「絶対に有り得ない。」とまでは言い切れませんので注意は必要です。

なお贈与には「相続時精算課税」という以上とは異なった課税の方法を選択できることになっています。これは簡単に説明すると生前贈与には後から全て相続税が課税されるというものです。先ほどの毎年、贈与税額を計算して納税していく方法でも亡くなる前の最後の3年間の贈与は相続税が課税される場合があることはご説明しました。この「相続時精算課税」というものは亡くなる前3年間だけではなく亡くなるまでの全ての贈与につき最終的に必ず相続税を課税するというものであり、これによって納めた贈与税がある場合には、それは全て相続税の前払い的な税金となる制度です。

よって、これを選択した場合には生前贈与をしても、ここで意図するような相続財産を減らす効果は全く期待できず、この意味での節税効果はありません。但し、その財産評価額については上で説明した、亡くなる前3年間の贈与と同様に贈与時の財産評価額を用いることになりますので財産評価額が上昇傾向にある財産を生前贈与した場合には節税の効果が期待できますので、この観点からは節税に利用できることになります。

この相続時精算課税は原則として60歳以上の父母又は祖父母から20歳以上の子又は孫に対し財産を贈与する場合において選択できる制度となっています。(なお、この場合の各人の年齢は贈与年の1月1日時点の年齢で判定します。すなわち贈与日における満年齢と一致するとは限りませんので、ご注意ください。また法律上は毎年、誕生日の前日に1歳、年を取ることになります。年を取るのは決して誕生日ではありませんので、この点にも、ご注意ください。)

この制度を選択した場合には贈与を受けた年の翌年に一定の書類を添付した贈与税の申告書を必ず提出する必要が生じます。また、この制度を選択すると、その選択に係る贈与者から贈与を受ける財産については、その選択をした年分以降全てこの制度が適用され元の方法(1年単位の暦年課税)へ戻ることは出来ないことになっています。なお何も選択しなければ1年単位の暦年課税が適用されることになるのは言うまでもないところです。

現在、政府内部では相続税と贈与税についての一体的改正が検討されている様子です。そして、贈与についての課税方法については上で説明した2つの制度の併存をやめ相続時精算課税に統一するか、又は現状、相続税が課税されることになっている亡くなる前3年間の贈与については、これを亡くなる前10年間程度の贈与にまで拡大する、などが検討されている模様です。もし、このような改正がなされたならば毎年110万円ずつ贈与をしていくという方法は、あまり意味のないものになってしまいます。しかし現在はまだ、この方法が有効ですので憚ることなくこの方法を使っていきたいと考えます。

ここまでを整理します。相続財産を減らす為に毎年110万円ずつ贈与をしていく! しかし亡くなる前3年以内の贈与については相続税が課税されることがあり、さらに相続時精算課税を選択した場合には全ての期間の贈与について必ず相続税が課税されるので、この場合には贈与した財産の財産評価額が上昇傾向にある場合のみ節税の効果が期待できる、ということになります。

相続時精算課税には極めて重要な注意点があります。それは相続時の現況によって相続税が軽減される特例、例えば小規模宅地の課税の特例などを使えば相続税が大幅に減額される見込みのある財産について、これを生前贈与してしまうと通常の宅地としての財産評価額によって課税されることになり税額が増加して結局のところ損をしてしまうということです。よって、これらの特例を使うことで相続税額を減らせる見込みのある財産は生前贈与には適さないということになります。

相続時精算課税は既に見たように相続税の税額そのものを減少させることには不向きです。但しメリットもあります。それは2500万円の基礎控除額までは取り敢えず贈与税を納める必要がない点です。それでも結局は、この2500万円の部分も相続税が課税される財産に含まれることになりますが相続が発生するまでの間は、この基礎控除額の部分には税金が発生せず課税が繰り延べられていることになります。無税で先行して2500万円の財産を生前贈与できるのです。課税が繰り延べられることも一種の節税だと考えることが出来ます。被相続人が健康で長生きをしているならば相続が発生するまでの長い年月に亘って相続税相当額を国から無利子で借りているようなものと言え、その経済的メリットは大きいものがあります。この制度を選択している納税者は現状では少ないようですが必要に応じて選択することも有意義であると思われます。

不動産を贈与する場合の諸経費

不動産以外の贈与については特に問題はないと思いますが不動産の贈与の場合だけは登録免許税や不動産取得税が発生します(相続の場合も登録免許税は発生しますが贈与の場合よりも低くなっており、また相続の場合には不動産取得税は発生しません。)。また所有権移転の登記を司法書士に委任するならば司法書士の報酬も発生します。土地を分筆して贈与する場合には分筆の登記が必要となり、それを土地家屋調査士に委任するならば、その報酬も発生します。よって不動産の贈与の場合には、これらの諸経費も併せて総合的に検討する必要があります。

直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税の特例

親子間等での住宅資金の贈与については500万円まで非課税となる特例があります(期限:令和3年12月31日まで/詳細は国税庁ホームページをご参照ください)。これを利用して500万円の生前贈与を受けて相続人となるべき人が住宅を購入ないし建築するという方法もあります。勿論、新しい住宅が必要な場合に限られ、これが必要でなければ、この方法は使えません。また、この場合、購入費や建築費が500万円を超える場合は、その500万円分の持分を超える部分の費用は被相続人に拠出してもらうのが良いことになります。そうすれば被相続人の現預金が不動産に転化することになり通常、不動産の相続税評価額は購入費や建築費よりも低くなりますので併せて被相続人の相続財産の相続税評価額も減らすことができ節税に繋がります。

リフォームや建て替えも節税になる!

被相続人名義の住宅に耐震工事などのリフォームが必要な場合には生前のうちに被相続人の現預金を使ってリフォームをしておいて貰うというのも一法です。

この場合、例えば現預金300万円を使って住宅をリフォームした場合、増築により床面積が増えない限りは通常、固定資産税評価額が上がることはありません。そして通常、住宅建物の相続税評価額は固定資産税評価額を用いることになりますので現預金300万円が住宅建物0円となって相続税評価額を大幅に減額することが出来ます。

また近い将来、建て替えが必要になるのであれば相続発生前に建て替えておけば古い住宅建物は取り壊されて0円となり、新築した住宅建物の相続税評価額は固定資産税評価額を用いることになりますが、この固定資産税評価額は例えば木造家屋であれば、通常、新築費用の60パーセント程度となりますので、これにより被相続人の相続財産の相続税評価額を減らすことができ節税に繋がります。

仏具・祭具について

話は若干それますが近年「墓じまい」が流行っているようです。これには、いくつかのパターンがあります。自宅から遠い墓を墓じまいして自宅近くに墓を移したり樹木葬にしたり自宅の部屋の中に仏壇のように墓を設けたりするもの、墓を完全に終わりにして中の遺骨は海などに散骨してしまうもの、中に遺骨が入っていない墓だけのものを処分してしまうもの、などいろいろあるようです。

相続税の節税の観点から言えることは、お墓や仏壇などの仏具や祭具が全く必要ないのならば関係ないのですが、多少なりとも必要ならば被相続人の生前のうちに被相続人の現預金で購入しておいて貰うことです。これらの祖先を祭祀する為の財産には相続税が課税されることはないので、これにより相続税の節税となるからです。但し代金を全額支払ってしまう必要があり、もし分割払いなどによる未決済額がある場合には、その部分には課税されてしまいますのでご注意ください。

また、これに関して言えば例えば被相続人となるご夫婦が共に長男長女であった為に両家のお墓を承継して2つのお墓にお墓参りをしなければならなくなっていた不便を解消する為に一方のお墓を墓じまいして遺骨を1つのお墓にまとめたいと考えたとします。その場合には、そのご夫婦がご存命のうちに、ご夫婦の出費にてやってもらうことです。墓じまいには、いろいろと出費がかさみますので、やるならば早めにやってもらって相続税が課税される現預金を減らしてしまえば、これも節税になります。

生命保険金を活用する!

生命保険金にも相続税が課税されますが一般の相続財産とは別枠の「500万円×法定相続人の数」の非課税限度額が用意されています。よって、この非課税限度額にまだ余裕があるならば、これを活用すれば相続税を減らせます。例えば現預金の500万円で保険料を一括払いして終身保険に入り、その死亡保険金が500万円であれば、現預金500万円が生命保険金500万円に変わり節税になります。

但し、預金と生命保険契約は金融商品としてのリスクが異なることは理解しておいて下さい。つまり預金の場合、万が一その銀行が破綻した場合、元本1000万円までと破綻日までの利息等が保護されますが生命保険契約の場合には、その保険会社が破綻した場合、責任準備金が削減されて予定利率が引き下げられるなど、契約条件が悪化することがあります。

死亡退職金を活用する!

死亡退職金にも一般の相続財産とは別枠の「500万円×法定相続人の数」の非課税限度額がありますので被相続人が、ご商売や一定規模(5棟10室)以上の不動産貸付をされていた場合には、これも利用できますので、ご検討ください。しかし、そのご商売や不動産貸付が会社組織になっておらず個人事業にとどまっている場合には被相続人が亡くなった際に会社として死亡退職金を支給することは出来ませんので一般的な死亡退職金による節税は出来ません。亡くなった人が幽霊にでもなって現れない限り(笑)自分自身で死亡退職金を支給することは出来ないからです。

しかし、その場合には小規模企業共済という積み立て制度を利用することで死亡退職金と同様の一時金を支給することが出来ます。小規模企業共済の掛金は全額、毎年の、そのご商売や不動産貸付の個人所得税の計算上、所得控除も出来ますので非課税で積み立てをすることが出来るという便利な制度です。なお詳しくは、これを運営している独立行政法人中小企業基盤整備機構にお問い合わせ下さい。

第1回まとめ

以上「相続財産を減らす」ということを軸に余談や冗談も交えながら、お話をしてきました。出来る限り分かり安くご説明したつもりですが、お分かり頂けたでしょうか。相続税の節税には100パーセント完全確実なものは無いので常にいろいろな情報に接し臨機応変に対応を変えていくことも重要です。法律自体も変わることがあります。相続が発生するのは明日かも知れないし10年後、20年後かも知れません。長い目で見て財産の中身や構成を変えていくことも時には必要になります。その意味でも信頼の出来る専門家に相談することが何より有益であると思われます。

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