相続登記しないとどうなる? | 相続専門税理士・司法書士監修【2024年8月更新】
相続で土地や建物などの不動産を入手したら「相続登記」という手続きをする必要があります。相続登記とは、相続により不動産を取得した人が、その不動産の名義を自分の名前に書き換える手続きのことです。
以前は相続登記は「義務」ではありませんでした。しかし2024年4月に法改正があり、義務化されました。相続登記をしないと個人として様々な不利益を被る可能性があります。
この記事では相続登記をしないことで起こるリスクを解説します。また相続登記の手続き方法や、困ったときに誰にサポートを依頼するかをお伝えします。ぜひ最後までお読みください。
1.相続登記しないとどうなる
冒頭で説明したように、相続登記とは相続で得た不動産の名義を書き換える作業のことです。しかし2024年4月まで相続登記は義務でなかったこともあり、相続をしても登記しないケースも多くありました。
相続登記をしないデメリットは大きいです。相続登記の手続きをしないでいると、その費用や手間をかけずに済むので、一時的に得をしたようにも思えますが、長期的に不利益の方が大きくなるでしょう。
相続登記をしないと、具体的にどんなことが起きるのか、詳しく見ていきます。
相続登記とは
相続登記とは、相続により家や土地、マンションなどの不動産を相続し、その不動産登録名義を変更する作業のことです。名義変更手続きは地域の法務局で行います。
2.相続登記しないと起きる問題とは
相続登記をしないと起こり得る問題を解説します。
2-1. 所有権を移転できず不動産を売買できない
相続登記をしていない土地や家などの不動産は、そのままでは売却できません。通常、不動産を売買するときは、登記簿上の所有者を売主から買主に変更する登記をします(所有権の移転)。しかし相続登記をしていないと、その手続きができません。第三者に対しても、自分が所有者であることを主張できません。
2-2.権利者全員の合意が得られず不動産を売買できない
不動産を売買するときは、その不動産を所有する権利を持つすべての人の合意が必要です。しかし相続登記が長期間なされていないと、全ての権利者の特定が困難になることもあります。権利者全員の合意を得られずに売買取引ができなくなる可能性があります。
2-3.住宅ローンが組めない
相続登記をしていないと住宅ローンが組めない可能性があります。住宅ローンは通常、担保として自宅に抵当権を設定します。しかし相続登記をしていないと、物件の名義は亡くなった方のままです。亡くなった方を相手として抵当権を設定することはできず、ローンの契約も不可能です。
2-4.権利者の所在や生死が不明で手続きが難航する
相続登記がされていないと、実際に所有権を持つ人の人数や所在・生死の特定が困難になります。所有権者を全て特定するには、相続の権利を持つ法定相続人を戸籍をたどって一人ひとり調査・特定しなくてはなりません。
権利者を特定したら、先方から売却の合意を得る必要があります。権利者が遠方や海外居住の場合はさらに手続きに時間がかかることが予想されます。
2-5.権利者が認知症などで判断力を失い不動産活用できない
相続登記を行わずに放置していると、権利者が認知症などにより判断力を失った場合、その不動産を自由に売却したり、活用したりすることが困難になります。
たとえば、相続登記をせずに名義が故人のままの不動産を所有していた場合、権利者が判断能力を失うと、家族がその不動産を処分したり担保として利用するために必要な手続きを進められなくなるおそれがあります。こうした状況では不動産を有効に活用できず、計画していた資金調達や資産運用が滞る事態に陥る可能性があるのです。
2-6.不動産を差し押さえられるリスクが生じる
実質的な権利者が相続登記を完了していないと、不動産を借金の担保として差し押さえられるリスクがあります。
たとえば被相続人が亡くなり、法定相続人の中に借金返済が滞っている債務者がいたとします。このケースで相続登記を行わないままにしておくと、相続財産である不動産を債権者が差し押さえる可能性があるでしょう。
相続登記を完了していないと、ご紹介したような種々な問題に直面する可能性が出てきます。相続が発生したら早急に手続きを進めることが重要です。
3.相続登記は2024年から義務化
2024年4月1日から不動産を相続した方の相続登記が義務になりました。相続によって不動産を取得した人は、不動産の取得を知った日から3年以内に相続登記をしなくてはなりません。登記の手続きをしない場合、10万円以下の過料が科される可能性があります。
以下が法改正で変更された点です。
- 相続で不動産を取得したら、3年以内に相続登記しなければならない。
- 登記義務に違反した場合、10万円以下の過料を科す。
- 相続人申告登記の新設(登記義務違反の過料を一時的に免れる制度)
- 住所・氏名が変更されたら2年以内に変更登記しなければならない。
2024年4月1日以前に相続があった方は、当時は相続登記が義務ではなかったため未対応の方もいるかもしれません。しかし法改正により、過去の相続についても相続登記が義務化されています。猶予期間は3年ありますが、早めに手続きを進めることが大切です。
4.相続登記の手続きの簡素化〜オンライン申請
相続登記の義務化開始とともに手続きの簡素化が実施され、オンラインでの相続登記申請が可能になりました。
詳しくは法務局『不動産の所有者が亡くなった(相続の登記をオンライン申請したい方)』をご確認ください。
5.相続登記の手順と費用目安
相続登記の手順と費用について解説します。初めに手順の解説です。
5-1相続登記の手順
相続登記の手順は以下の通りです。
- 対象となる不動産の確認:対象となる不動産を謄本等で確認します。
- 相続人の確定: 相続関係を戸籍等で調査し、法定相続人を確定。相続人全員の同意を得ます。
- 遺産分割協議:相続人が複数いる場合、誰が何を相続するかを決めます。(遺産分割協議)
- 必要書類の準備: 被相続人と相続人の戸籍謄本、遺産分割協議書などの書類を準備します。
- 登記申請: 法務局にて必要な書類とあわせて登記申請書を提出します。
手順について詳しくは、こちらの記事で相続登記の手順と方法をマニュアル化し解説していますので、参考にしてください。
5-2相続登記の費用目安
相続登記の手続きは、自分で行う場合と専門家に依頼する場合で費用が変わります。それぞれの費用目安をお知らせします。
5-2-1.自分で相続登記するときの費用目安
自分で相続登記を行う場合は、相続する不動産の価格により費用が変動します。具体的な金額例を交えて解説します。
◉費用イメージ
固定資産評価額3,000万円の不動産を相続したケースを想定して計算。
費用は以下となります。
◎費用目安
13万円程度
◎費用内訳
- 書類取得費用:5,000円程度(戸籍謄本等の取得費用合計)
- 登録免許税:固定資産評価額 ✕ 0.4% (固定資産評価額3,000万円✕0.4%=120,000円)
5-2-2.専門家に依頼する場合-司法書士か弁護士か
専門家に相続登記の手続きを依頼する場合は、自分で行う場合の費用プラス専門家の手数料が必要になります。専門家は司法書士と弁護士が考えられます。
相続トラブルがない場合の依頼先は司法書士です。いっぽう相続に関して未解決の問題がある場合は、はじめに弁護士などの専門家に相談して問題を解決する必要があります。問題が解決した後に、相続登記の手続きを行うことになります。
司法書士に依頼する場合、弁護士に依頼する場合、それぞれの費用目安を見ていきましょう。
5-2-3.司法書士に依頼する場合の費用目安
司法書士に相続登記など不動産登記を依頼する場合の手続費用の目安は、不動産1件あたり5万円〜10万円が見込まれます。不動産の数が多い場合は、物件数に応じて費用も増えます。
※日本司法書士連合会が作成した報酬アンケートが参考になります。詳細は日本司法書士会連合会の「司法書士の報酬」をご覧ください。(日本司法書士会連合会 | 司法書士の報酬)
※特に2018年(平成30年)1月実施の報酬アンケート結果「所有権移転登記-4 所有権移転登記(相続)」が参考になるでしょう。
5-2-4.弁護士に依頼する場合の費用目安
相続に関する紛争の解決を弁護士に依頼する場合、問題が解決したときに依頼者が得る金銭的利益により費用が変わります。
※日本弁護士連合会が作成した「市民のための弁護士報酬の目安」が参考になります。ぜひご覧ください。(日本弁護士連合会| 市民のための弁護士報酬の目安)
※特に「市民のための弁護士報酬の目安」で紹介されている遺産分割調停の事例が参考になります。相続金額5,000万円の事例で着手金と報奨金の目安が掲載されています。
6.未処理の相続登記がもたらす社会課題
最後に未処理の相続登記がもたらす社会的な問題をご紹介します。所有者不明の土地は個人も行政も活用できず、様々な不都合を生み出します。
6-1.公共事業の用地取得が進まず事業が始められない
共有地が相続登記されていないので多くの相続人が存在し、一部の相続人は所在不明。そのため用地取得が難しく、公共事業を進めることができない。
6-2.広場として利用したい土地を転用できない
広場として利用したい土地があるが所有者の所在が不明。樹木の伐採や利用方針の決定ができない。
6-3.家電製品等が大量に投棄されているが対処できない
家電製品等が大量に投棄された土地があるが、所有者の現住所が不明なので放置された物品が不法投棄か保管物か特定できない。そのため自治体による処分もできない。
6-4.土砂災害で崩れた急傾斜地の対策工事ができない
台風や大雨などの土砂災害により崩れた土地は安全確保のため対策工事が急がれるが、相続登記されず所有者不明の場合、対応に着手することができない。
相続登記が完了せず土地所有者が特定できないために生まれる社会問題をご紹介しました。所有者不明の土地は個人的にも行政レベルでも様々な問題を引き起こす可能性があります。
7.まとめ
最後までお読みいただきありがとうございます。相続登記をしないと、どういったことが起きるかについて解説しました。未完了では多くの問題が生まれる可能性があります。
法改正により、相続登記しないと科せられる罰則も定められました。相続があったら、速やかに手続きすることが望まれます。
もし、相続登記のやり方がわからない場合は、司法書士などの専門家に相談しましょう。弊社でも提携の司法書士が対応いたします。
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