小規模宅地等の特例を使った相続税の減額事例と計算方法を解説
小規模宅地等の特例は、適用できると最大80%税金を減らせます。相続する人にとっては大変助かる制度です。
特例の対象となるのは宅地ですが、宅地の用途で減額割合が異なります。宅地には自宅を建てて居住するだけでなく、自分の事業に使ったり、他の人に賃貸したりする場合があります。所有する宅地の利用方法が1つでなく、いくつかの区分にまたがる場合は、税金の計算に複数の減額割合を併用しなくてはなりません。
この記事では小規模宅地等の特例を使った場合、宅地にかかる税金がどのように減額されるか、その計算方法をわかりやすく解説します。
減額の計算方法には、以下の2種類があります。
1.宅地を単独用途で利用していたときの計算方法
2.宅地を複数利用で利用していたときの計算方法
順番に解説しますので、ご自身のケースでの計算の参考にしてください。
1.小規模宅地等の特例・宅地種類別の控除額計算方法
小規模宅地等の特例の対象となる宅地は以下の4種類です。小規模宅地等の特例を使った税金控除額の計算例を、宅地種類別に順番に解説します。
1-1.特定居住用宅地等の税金減額の計算例
特定居住用宅地とは、被相続人もしくは同一生計親族が居住するために使っていた住宅用地のことです。税金が減額される限度面積は330㎡、減額割合は80%です。
特定居住用宅地 | |
土地の定義 | 被相続人もしくは同一生計親族が住んでいた住宅の敷地 |
税金減額の限度面積 | 330㎡ |
減額割合 | 80% |
1-1-1.計算例1:限度面積以下で相続人は1人
特定居住用宅地が限度面積以下で、相続人は1人のケースの計算例をご紹介します。
◉相続の状況
・相続する宅地面積は90坪(297㎡)、土地の価額は4,000万円
・相続人は被相続人と同居していた長男1人だけ
相続の状況 | |
相続する宅地面積 | 90坪(297㎡) |
宅地の価額 | 4,000万円 |
相続人 | 被相続人の長男1人 |
◉減額計算
・土地面積は297㎡で330㎡以下。よって保有する土地の全てが減額対象になる
・【計算式】4,000万円✕80%=3,200万円
・3,200万円減額できる→残りの800万円分が課税対象(4,000万円-3,200万円)
1-1-2.計算例2:限度面積超えで相続人は1人
特定居住用宅地が限度面積超えで、相続人は1人のケースの計算例をご紹介します。
◉相続の状況
・相続する宅地面積は180坪(594㎡)、土地の価額は8,000万円
・相続人は被相続人の長男の1人
相続の状況 | |
相続する宅地面積 | 180坪(594㎡) |
宅地の価額 | 8,000万円 |
相続人 | 被相続人の長男1人 |
◉減額計算
・土地面積は594㎡で330㎡を超えている。減額対象は330㎡までになる。
◉計算式
・8,000万円✕330㎡/594㎡✕80%≒3,555万円
・3,555万円減額できる→残りの4,445万円分が課税対象(8,000万円-3,555万円)
1-1-3.計算例3:限度面積以下で相続人は2人
特定居住用宅地が限度面積以下で、相続人は2人のケースの計算例をご紹介します。
◉相続の状況
・相続する宅地面積は90坪(297㎡)、土地の価額は4,000万円
・相続人は被相続人の長女と長男の2人
・長女は被相続人と同居、長男は家を出て賃貸住宅に居住
→長女だけが特定居住用宅地等の特例適用の要件を満たしている
・長女が50%、長男が50%と土地を分割で相続する
相続の状況 | |
相続する宅地面積 | 90坪(297㎡) |
宅地の価額 | 4,000万円 |
相続人 | 被相続人の長女と長男の2人 |
取得割合 | 長女が50%の148.5㎡(2,000万円)長男が50%の148.5㎡(2,000万円) |
◉減額計算
・土地面積は297㎡で、330㎡以下なので土地の全てが減額対象になる
・しかし特定居住用宅地等の特例の要件を満たすのは長女だけ
・長女が相続する土地面積の1/2に対して減額されます
◉計算式
長女4,000万円✕1/2✕80%=1,600万円
・長女は1,600万円減額できて、残りの400万円が課税対象になる(相続分2,000万円-1,600万円)
・長男は特例を適用できないので、相続する2,000万円すべてが課税対象になる
1-1-4.計算例4:限度面積超えで相続人は2人
特定居住用宅地が限度面積超えで、相続人は2人のケースの計算例をご紹介します。
◉相続の状況
・相続する宅地面積は180坪(594㎡)、土地の価額は8,000万円
・相続人は被相続人の長男と二男の2人。
・長男と二男とも家を出て独立し3年以上賃貸住宅に居住。
・2人とも特定居住用宅地等の特例適用の要件を満たしている。
・長男が50%、二男が50%と分割で土地を取得する
相続の状況 | |
相続する宅地面積 | 180坪(594㎡) |
宅地の価額 | 8,000万円 |
相続人 | 被相続人の長男と二男の2人 |
取得割合 | 長男が50%の297㎡(4,000万円)、二男が50%の297㎡(4,000万円) |
◉減額計算
・土地面積は594㎡で330㎡を超えている。土地の合計330㎡までが減額対象。
◉計算式
・長男:4,000万円✕165㎡/297㎡✕80%≒1,777万円
・二男:4,000万円✕165㎡/297㎡✕80%≒1,777万円
・長男、二男はそれぞれ1,777万円減額できる
・それぞれ残りの2,223万円分が課税対象(相続分4,000万円-1,777万円)
1-2.貸付事業用宅地等の特例での税金減額の計算例
貸付事業用宅地とは被相続人が宅地として人に貸していた土地のことです。税金が減額される限度面積は200㎡、減額割合は50%です。ただし、原則として相続開始前3年以内に新たに貸付事業を始めた宅地等は対象になりません。
貸付事業用宅地等には、以下3つのパターンがあります。
1.他人に建物を建てさせて地代を収受している宅地‥貸宅地
2.本人が建物を建設し賃貸して家賃を収受している宅地‥貸家建付地
3.構築物を設置して他人の自動車等を駐めさせている駐車場用地
貸付事業用宅地 | |
土地の定義 | 被相続人が宅地として人に貸していた土地 |
税金減額の限度面積 | 200㎡ |
減額割合 | 50% |
1-2-1.計算例1:限度面積以下で相続人は1人
貸付事業用宅地が限度面積以下で、相続人は1人のケースの計算例をご紹介します。
◉相続の状況
・相続する宅地面積は60坪(198㎡)、土地の価額は3,000万円
・相続人は被相続人の長男1人のみ
相続の状況 | |
相続する宅地面積 | 60坪(198㎡) |
宅地の価額 | 3,000万円 |
相続人 | 被相続人の長男1人 |
◉減額計算
・土地面積は198㎡で200㎡以下。よって保有する土地の全てが減額対象になる
・【計算式】3,000万円✕50%=1,500万円
・1,500万円減額できる→残りの1,500万円分が課税対象(3,000万円-1,500万円)
1-2-2.計算例2:限度面積以上で相続人は1人
貸付事業用宅地が限度面積以上で、相続人は1人のケースの計算例をご紹介します。
◉相続の状況
・相続する宅地面積は100坪(330㎡)、土地の価額は6,000万円
・相続人は被相続人の長男1人のみ
相続の状況 | |
相続する宅地面積 | 100坪(330㎡) |
宅地の価額 | 6,000万円 |
相続人 | 被相続人の長男1人 |
◉減額計算
・土地面積は330㎡で200㎡超え。よって保有する土地の一部、200㎡までが減額対象になる
・【計算式】6,000万円✕200/330✕50%=1,818万円
・1,818万円減額できる→残りの4,182万円分が課税対象(6,000万円-1,818万円)
1-3.特定事業用宅地の特例での税金減額の計算例
特定事業用宅とは、被相続人が事業用に使っていた宅地のことです。税金が減額される限度面積は400㎡、減額割合は80%です。事業といっても不動産賃貸業は対象外です。(不動産賃貸業の場合は「貸付事業用宅地等」の適用を検討することになります。)
特定事業用宅地 | |
土地の定義 | 被相続人が事業用に使っていた宅地 |
税金減額の限度面積 | 400㎡ |
減額割合 | 80% |
1-3-1.計算例1:限度面積以下で相続人は1人
特定事業用宅地が限度面積以下で相続人は1人のケースの計算例をご紹介します。
◉相続の状況
・相続する宅地面積は90坪(297㎡)、土地の価額は4,000万円
・相続人は被相続人の長男1人のみ
相続の状況 | |
相続する宅地面積 | 90坪(297㎡) |
宅地の価額 | 4,000万円 |
相続人 | 被相続人の長男1人 |
◉減額計算
・土地面積は297㎡で400㎡以下。よって保有する土地の全てが減額対象になる
・【計算式】4,000万円✕80%=3,200万円
・3,200万円減額できる→残りの800万円分が課税対象(4,000万円-3,200万円)
1-3-2.計算例2:限度面積以上で相続人は1人
特定事業用宅地が限度面積以上で相続人は1人のケースの計算例をご紹介します。
◉相続の状況
・相続する宅地面積は180坪(594㎡)、土地の価額は8,000万円
・相続人は被相続人の長男の1人
相続の状況 | |
相続する宅地面積 | 180坪(594㎡) |
宅地の価額 | 8,000万円 |
相続人 | 被相続人の長男1人 |
◉減額計算
・土地面積は594㎡で400㎡を超えている。減額対象の土地は400㎡までになる。
・【計算式】8,000万円✕400㎡/594㎡✕80%≒4,309万円
・4,309万円減額できる→残りの3,691万円分が課税対象(8,000万円-4,309万円)
1-4.特定同族会社事業用宅地等の特例での税金減額の計算例
特定同族会社事業用宅地とは、相続人が所有する特定同族会社の事業用に使われていた宅地のことです。
ただし、この特例を適用するには、事業が以下3点の条件を満たしていなくてはなりません。
(1)50%超の所有割合(注)
(2)不動産賃貸業以外の事業
(3)申告期限における役員が取得
注)被相続人と親族等とで、50%超の株式・出資を所有している同族会社の事業用
条件を満たしているときに、税金が減額される限度面積は400㎡、減額割合は80%です。
特定同族会社事業用宅地 | |
土地の定義 | 相続人が所有する特定同族会社の事業用に使われていた宅地 |
税金減額の限度面積 | 400㎡ |
減額割合 | 80% |
特定同族会社事業用宅地の限度面積と減額割合は、特定事業用宅地の特例と同じです。特定事業用宅地と同様に計算できます。
2.複数制度を併用した場合の計算方法
居住用地と事業用宅地の両方を相続するなど、複数の土地を相続する場合もあります。相続する宅地種類が複数ある場合は、特例制度の併用が可能です。しかし、宅地の中に貸付事業用宅地が含まれる場合は、特別な計算式を使って計算します。複数の特例を使う場合の計算例をご紹介します。
2-1.特定居住用宅地と特定事業用宅地と貸付事業用宅地を併用の計算例
特定居住用宅地(居住用地)と特定事業用宅地(事業用地)と貸付事業用宅地(貸付事業用地)を相続し、特例を併用する場合の計算例をご紹介します。
小規模宅地等の特例で制度併用する計算例 | |
宅地(1) | 特定居住用宅地(居住用) |
宅地(2) | 特定事業用宅地(事業用地) |
宅地(3) | 貸付事業用宅地(貸付事業用) |
複数種類の宅地を相続する場合は、どの種類の、どの土地が、どこまで控除減額を受けられるかは、国税により特別なルールが決められています。どんなルールであるかは、下記の計算式をご参照ください。
2-1-1.相続する宅地種類が複数の場合の適用限度額計算式
相続する宅地種類が複数の場合の、適用限度額計算式は以下のとおりです。
特定居住用宅地 ✕ 200/330+特定事業用宅地✕200/400+貸付事業用宅地≦200㎡
ここで注意すべきことは「複数種類の宅地を相続する場合は、各宅地の減額枠が満額適用できない可能性がある」ということです。
では具体的な事例で見てみましょう。
2-1-2.計算例1:居住用宅地+貸付事業用宅地の2種を相続人1人で相続
居住用宅地+貸付事業用宅地の2種を相続人1人で相続するケースの計算例です。
◉相続の状況
・相続する宅地面積は
1.居住用90坪(297㎡)、土地の価額は4,000万円
2.貸付事業用100坪(330㎡)、土地の価額は5,000万円
・2種を相続人1人で相続
・相続人は被相続人の長男1人のみ
相続の状況 | |
相続する宅地面積 | 居住用90坪(297㎡) |
貸付事業用100坪(330㎡) | |
宅地の価額 | 居住用4,000万円 |
貸付事業用5,000万円 | |
相続人 | 被相続人の長男1人 |
◉減額計算
・貸付事業用宅地適用限度面積計算(計算式による)
200㎡-297㎡✕200/330=20㎡
・貸付事業用宅地で減額が適用できるのは20㎡まで
・居住用宅地は330㎡未満の297㎡なので全面積に対して減額できる
◉計算式
5,000万円✕20/330✕50%=151万円
4,000万円✕80%=3200万円
・3,351万円減額できる(151万円+3200万円)
2-1-3.計算例2:事業用宅地+貸付事業用宅地の2種を相続人1人で相続
事業用宅地+貸付事業用宅地の2種を相続人1人で相続するケースの計算例です。
◉相続の状況
・相続する宅地面積は
1.事業用100坪(330㎡)、土地の価額は5,000万円
2.貸付事業用100坪(330㎡)、土地の価額は5,000万円
・2種を相続人1人で相続
・相続人は被相続人の長男1人のみ
相続の状況 | |
相続する宅地面積 | 事業用100坪(330㎡) |
貸付事業用100坪(330㎡) | |
宅地の価額 | 事業用5,000万円 |
貸付事業用5,000万円 | |
相続人 | 被相続人の長男1人 |
◉減額計算
・貸付事業用宅地適用限度面積計算(計算式による)
200㎡-330㎡✕200/400=35㎡
・貸付事業用宅地で減額が適用できるのは35㎡まで
・事業用宅地は400㎡未満の330㎡なので全面積に対して減額できる
◉計算式
5,000万円✕35/330✕50%=265万円
5,000万円✕80%=4,000万円
・4,265万円減額できる(4,000万円+265万円)
2-1-4.計算例3:特定居住用+特定事業用(または特定同族会社事業用)
特定居住用+特定事業用(または特定同族会社事業用)の組み合わせは特別です。この組み合わせだけは、限度枠がフルに適用できるのです。つまり特定居住用の限度面積330㎡と特定事業用の限度面積400㎡の合計に対して特例を使えます。
相続する宅地が限度面積よりも大きいときは、限度を超えた方の宅地の限度面積計算だけすればよいとされています。組み合わせ計算が不要になり、相続人にとっては大きなメリットです。
◉相続の状況
・相続する宅地面積は
1.居住用90坪(297㎡)、土地の価額は4,000万円
2.事業用120坪(396㎡)、土地の価額は1億2,000万円
・2種を3人で相続
・相続人は被相続人の配偶者と長男、長女
相続の状況 | |
相続する宅地面積 | 居住用90坪(297㎡) |
事業用120坪(396㎡) | |
宅地の価額 | 居住用4,000万円 |
事業用1億2,000万円 | |
相続人 | 被相続人の配偶者と長男、長女の3人 |
◉減額計算
・居住用宅地は297㎡で限度面積未満なので全面積に対して減額できる
・事業用宅地は396㎡で限度面積未満のなので全面積に対して減額できる
・【計算式】
4,000万円✕80%=3,200万円
1億2,000万円✕80%=9,600万円
1億2,800万円減額できる(3,200万円+9,600万円)
3.小規模宅地等の特例の注意点
最後に、小規模宅地等の特例を適用する際の注意点をお伝えします。
3-1.課税0円でも相続税の申告が必須
小規模宅地等の特例を活用し、相続税の控除を適用すると支払うべき相続税が0円になる方も多いです。計算して相続税がかからないと判明しても、相続税の申告作業は必要です。必ず申告をしてください。
考え方は事業主の確定申告と同じです。例え利益が出ず赤字であったとしても、事業運営に関する申告作業は必要です。申告して初めて、制度上の優遇措置を受けることができます。
相続したら、相続税がかからないとしても必ず相続税申告の作業をしてください。
まとめ
小規模宅地等の特例を使った場合、実際にはどの程度減額になるのかの計算事例をご紹介しました。
・特定居住用宅地等
・特定事業用宅地等(特定同族会社事業用宅地等)
・貸付事業用宅地等
この3つは特例適用面積と、減額割合が異なります。それぞれの宅地種類での減額の計算事例をご紹介しました。
複数種類の宅地を相続する場合もあります。複数の宅地相続については、種類ごとに限度面積まで減額できるわけではありません。複数の種類の土地を相続する場合に適用される計算式が課税当局により定められています。
この記事では、複数種類を相続する場合の計算方法も、具体的な金額と土地面積で計算事例を紹介しています。参考にしていただけたかと思います。
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