小規模宅地等の特例は老人ホーム入居でも使える|相続専門税理士法人が解説

こんにちは、相続専門の税理士法人ともにの佐藤まり子です。

適用できれば宅地の相続で税金を80%減額できる「小規模宅地等の特例」は、親が老人ホームに入居しても使えるのでしょうか?特例が使えるか使えないかで相続税の計算は大きく変わるので、気になるところですよね。実際のところどうなのか、相続税の専門家の税理士に詳しく聞いてきました。

結論から言って、被相続人が老人ホーム入居してから亡くなった場合、被相続人所有の自宅に小規模宅地等の特例を使うことは可能です。しかし自宅の利用状況によっては適用不可なこともあります。したがって、被相続人が老人ホームに移った後の自宅の使い方については注意しなくてはいけません。

特例が使えるケースと使えないケースの両方を解説しますので、ぜひ最後まで読んで役立ててください。

老人ホームに入居しても小規模宅地等の特例は使える

結論から言って、被相続人が老人ホームに入居後に亡くなった場合でも、前提条件を満たせば小規模宅地等の特例は利用できます。以下は、国税庁の質疑応答事例です。老人ホーム入所でも特定の事由があり要件を満たしていれば特例対象になると書かれています。

<国税庁質疑応答事例>老人ホームへの入所により空家となっていた建物の敷地についての小規模宅地等の特例

【照会要旨】
被相続人は、介護保険法に規定する要介護認定を受け、居住していた建物を離れて特別養護老人ホーム(老人福祉法第20条の5)に入所しましたが、一度も退所することなく亡くなりました。

被相続人が特別養護老人ホームへの入所前まで居住していた建物は、相続の開始の直前まで空家となっていましたが、この建物の敷地は、相続の開始の直前において被相続人の居住の用に供されていた宅地等に該当しますか。

【回答要旨】
照会のケースにおける、被相続人が所有していた建物の敷地は、相続の開始の直前において被相続人の居住の用に供されていた宅地等に該当することになります。

(理由)
平成25年度の税制改正において、相続の開始の直前において被相続人の居住の用に供されていなかった宅地等の場合であっても、1被相続人が、相続の開始の直前において介護保険法等に規定する要介護認定等を受けていたこと及び2その被相続人が老人福祉法等に規定する特別養護老人ホーム等(以下「老人ホーム等」といいます。)に入居又は入所(以下「入居等」といいます。)していたことという要件を満たすときには、その被相続人により老人ホーム等に入居等をする直前まで居住の用に供されていた宅地等(その被相続人の特別養護老人ホーム等に入居等後に、事業の用又は新たに被相続人等(被相続人又はその被相続人と生計を一にしていた親族をいいます。以下同じです。)以外の者の居住の用に供されている場合を除きます。)については、被相続人等の居住の用に供されていた宅地等に当たることとされました。なお、この改正後の規定は、平成26年1月1日以後に相続又は遺贈により取得する場合について適用されます。

出典引用:国税庁質疑応答事例https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/sozoku/10/15.htm
注:執筆時に赤字部分を装飾

つづいて特例を適用するために、満たさねばならない前提条件を解説します。

特例対象の家屋であるため満たすべき前提条件

宅地への特例適用のため満たすべき前提条件とは、老人ホームに入居した被相続人が、次の(1)か(2)の認定を受けている、ということです。

(1)要介護認定を受けている

被相続人が要介護認定を受けて老人ホーム等に入居しているなら、小規模宅地等の特例の前提条件を満たしています。ただし対象施設の条件があります。以下施設ならばOKです。

・養護老人ホーム
・特別養護老人ホーム
・軽費老人ホーム
・有料老人ホーム
・老人福祉法に規定する認知症対応型老人共同生活援助事業が行われる住居
・介護老人保健施設
・介護医療院
・サービス付き高齢者向け住宅

(2)要支援認定を受けている

被相続人が要支援認定を受けて支援施設等に入居しているなら、小規模宅地等の特例の前提条件を満たします。認められる施設の定義は以下のとおりです。

・障害者支援施設
・共同生活援助を行う住居

要介護認定/要支援認定なしでの特例適用も可能

特例の適用には、要介護認定/要支援認定が必須条件です。しかし、認定済みでなくても特例が適用できる例外があります。それは、市区町村に要介護認定/要支援認定申請中で、老人ホーム等に入居した被相続人が認定前に亡くなったケースです。申請中に死亡しその後認定が下りた場合は、特例の適用が可能です。

老人ホーム入居で小規模宅地等の特例を使える具体例

つづいて特例の適用が可能になる具体的な自宅の使い方の事例をご紹介します。被相続人側が前提条件を満たしても、残った自宅の使い方によっては小規模宅地等の特例を適用できません。問題なく特例が使える具体例を確認しておきましょう。

老人ホーム入居後の自宅が空き家になっていた

被相続人が老人ホームなどに入居した後に、誰も住まず空き家となった自宅は「特定居住用宅地等」に該当し、減額80%の小規模宅地等の特例が使えます。

老人ホーム入居後の自宅では配偶者が一人で暮らしていた

被相続人が老人ホームに入居後、被相続人の配偶者が1人で自宅に暮らしている場合、自宅は「特定居住用宅地等」に該当し、80%減額の小規模宅地等の特例が使えます。

老人ホーム入居前も後も生計一親族が自宅に住んでいる

被相続人が老人ホームに入る前から、自宅で同居かつ生計を共にしていた親族が、引き続き住み続ける場合も、80%減額の小規模宅地等の特例が使えます。

・生計一親族のみ引き続き住む
・配偶者+生計一親族が引き続き住む

上記どちらのケースでも問題なく特例を適用可能です。

老人ホーム入居で小規模宅地等の特例が使えない事例

つづいて、小規模宅地等の特例が使えない事例をご紹介します。使える事例との差異は、専門家ではない私が見ると小さく感じます。ですから注意が必要です。

老人ホーム入居前に自宅以外で暮らした

老人ホームに入居する直前に自宅以外の場所で暮らしていると小規模宅地等の特例が使えません。

たとえば以下の流れで老人ホーム等に入居するのはよくある事例です。しかし、このケースでは特例が使えません。

(1)被相続人の体調悪化を機に、独立して別に暮らす子どもの家に同居する
 ↓
(2)被相続人は自宅から長女の家に転居する
 ↓
(3)被相続人の体調がさらに悪化し要介護認定を受け、介護付老人ホームに入居する

特例を適用するためには「直前まで居住の用に供されている」ことが条件です。しかし上の例ではこの条件が満たせないので、適用対象外となります。

老人ホーム入居後に新たに親族が住み始めた

被相続人が老人ホーム入居後に自宅に親族が住んで特例の対象となるのは、以下の場合だけです。

・その親族が被相続人と生計を一にしてる
・被相続人転居前からずっと自宅に同居している

つまり被相続人が去った自宅に、新たに親族が入居して住むようになった場合は小規模宅地等の特例は適用できません。

老人ホーム入居で特例適用できるが減額される事例

老人ホーム入居後の自宅の使い方によっては、小規模宅地等の特例は使えるけれど減額割合が下がるケースがあります。ご紹介します。

入居後に自宅を賃貸に出す

被相続人が老人ホームに入居した後、自宅を親族以外の誰かに有償で貸し出した場合は、小規模宅地等の特例の1つ、80%減額の「特定居住用宅地等」には該当しません。自宅を貸し出した場合は「貸付事業用宅地等」に該当し、減額率は50%になります。

小規模宅地等の特例手続方法

小規模宅地等の特例を適用した相続税の申告に必要なものは以下の通りです。

・相続申告書(特例の適用を希望することを記載)
・申告に必要な添付書類

小規模宅地等の特例解説記事の「手続き方法」の項目で詳しく解説しています。

まとめ

被相続人が老人ホームに入居した場合にも、相続税が減額できる小規模宅地等の特例適用が可能なことを解説しました。

実際にはいろいろな条件が絡み合って、知識を身に着けても適用できるかどうかご自分では判断しにくいかもしれません。おひとりで考えても結論が出ないならぜひ一度ご相談ください。専門家が無料でご相談を受け付けております。

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