家なき子特例って?小規模宅地の特例で相続税を節税する方法を解説
家なき子特例とは、小規模宅地等の特例の1つで、相続税を節税する効果の大きい特例です。当税理士法人にも連日家なき子特例についてのご相談が寄せられています。
しかし家なき子特例を適用するには、被相続人の生前に準備が必要なケースが多いです。したがって相続が始まってから適用を希望してもうまくいかないことがよくあります。
この記事では、家なき子特例を適用するために必要な要件や注意点を、ケースごとにわかりやすく解説しました。
・家なき子特例について知りたい
・親が住んでいた家を相続する
・相続税を減額する方法が知りたい
こんな方はぜひ早めにお読みください。
1.家なき子特例とは
「家なき子特例」とは、非同居の親族であっても小規模宅地等の特例を適用できることを指します。小規模宅地等の特例は原則として同居親族に認められる特例ですが、非同居の親族でも一定の要件を満たせば適用可能です。小規模宅地等の特例適用は相続税の金額にダイレクトに影響する非常に重要なポイントです。
2.小規模宅地等の特例とは
小規模宅地等の特例とは
・自宅
・事業用の土地
・賃貸している土地
の相続で、一定の要件を満たすと評価額を減らせる制度です。
具体例を挙げます。
評価額5,000万円の自宅を、被相続人の配偶者が相続したとしましょう。小規模宅地等の特例を適用すると、自宅の評価額が80%減額され、1,000万円の評価になります。相続税は、評価減額後の1,000万円に対して課されるので、グッと金額が抑えられます。
このように小規模宅地等の特例を適用しますと、税額計算の元になる財産の評価額を80%も減額できて、税金も低くなります。ですから相続があるなら小規模宅地等の特例を適用できるかどうかは、すぐ確認しましょう。(小規模他宅地についてはこちらの記事で詳しく解説していますのでぜひお読みください。
2-1.小規模宅地等の対象となる土地
小規模宅地等の対象となる土地は3種類あります。
- ①特定居住用宅地等(下記【1】【2】)・・・いわゆる自宅
- ②特定事業用宅地等又は特定同族会社事業用宅地等(下記【3】)・・・いわゆる自分の店や自社ビル
- ③貸付事業用宅地等(下記【4】)・・・いわゆる賃貸不動産や駐車場
それでは順番に見ていきましょう。
2-1-1.小規模宅地等の適用例【1】同居の親族が相続
小規模宅地等の適用例【1】は、同居の親族が相続するケースです。同居していた親族が被相続人の自宅を取得し住み続ける場合には、特定居住用宅地等として特例の適用ができ、土地の評価額を80%減額できます。
ポイントは、申告期限までその自宅に住み続ける必要があり、途中で売却などをした場合には適用できないということ。
同居の親族には、配偶者(夫か妻)は含まれず、親が子供家族と一緒に生活しているケースが想定されます。
2-1-2.小規模宅地等の適用例【2】配偶者が相続
配偶者が被相続人やその生計一親族の自宅を取得した場合には、無条件で特定居住用宅地等として特例の適用ができ、土地の評価額を80%減できます。
【1】の同居親族との違いは、申告期限まで住み続ける必要がなく、途中で売却などしても80%減を受けられるという点です。
なお、令和2年4月以降の相続については、新たに『配偶者居住権』という制度が施行されたので、誰が自宅を取得すべきか、慎重に検討する必要がでてきました。
この場合の税額計算は複雑なため、専門家に相談することをおすすめします。
2-1-3.小規模宅地等の適用例【3】事業用の土地を相続
被相続人や生計一親族が事業をしていた土地で、事業を申告期限まで継続する場合には、特定事業用宅地等として特例の適用ができます。この場合は土地の評価額を80%減可能です。
自分で「ビル」を所有し事業経営している方や、いわゆる地元で営む家族経営の料理店等が該当するケースです。
一方、一代で会社を築き自社の事業用の「敷地」を所有している方のためには、特定事業用宅地等に似た制度で「特定同族会社事業用宅地等」という制度があります。この場合も、土地の評価額の80%減できます。
2-1-4.小規模宅地等の適用例【4】貸付用の土地を相続
被相続人やその生計一親族が「貸付」をしていた土地で、賃貸を申告期限まで継続する場合には、貸付事業用宅地等として特例の適用ができ、土地の評価額を50%減できます。
賃貸不動産や貸駐車場が代表例です。【1】【2】【3】のケースとの違いは、土地の評価額が80%減ではなく50%減となることです。
貸駐車場が砂利敷の場合には、適用できるか慎重に検討する必要があります。
3.家なき子特例を使うための要件
小規模宅地等の特例を見てきましたが、この中で家なき子特例がどれに当てはまるかというと【1】【2】に類するものが該当します。
しかし、実際に特例を適用することは、税制改正もあり、前述した内容よりも狭き門となっています。さらに時代の情勢に流され、今後従来より厳しくなる可能性もあります。
家なき子特例を使った相続対策を考える場合には、慎重に情勢を見極める必要があります。
情勢を見極めるために、まずは現状の家なき子特例の要件を確認してみましょう。特例が適用されるのは、以下の6つの要件を全て満たす必要があります。
3-1.特例要件1:被相続人に配偶者、同居の親族がいない
被相続人に配偶者がいたり、同居親族がいた場合は特例を受けることができません。
3-2.特例要件2:自分の持ち家に住んでいない(過去3年以内)
相続開始前3年以内に相続人が自己所有の家に住んだことがある場合は、特例を受けることができません。
3-3.特例要件3:親族の持ち家に住んでいない(過去3年以内)
相続開始前3年以内に相続人が3親等以内の親族が所有している家に住んでいた場合は、特例を受けることができません。
このケースは稀にあります。相続人自身は親族の持ち家に住んでいること(妻の親の持ち家もしくは妻の親と同居)が、自分の親の相続と関係あるとは思いもしません。しかし、これが理由で家なき子特例が適用できないケースがあるのです。
3-4.特例要件4:親族関連法人所有の家に住んでいない(過去3年以内)
相続開始前3年以内に相続人と特別な関係がある法人が所有している家に住んでいた場合は、家なき子特例を受けることができません。特別な関係の法人とは親族が経営する会社をいいます。
3-5.特例要件5:今住んでいる家を過去に所有したことがない
相続開始時に住んでいる家を過去に一度でも所有したことがある場合には、特例を受けることができません。
3-6.特例要件6:相続後すぐ土地を売却しない(10ヶ月以内)
相続した土地を申告期限までに売却した場合は家なき子特例を受けることができません。
住まなくてもよいのですが、売却しないこと(所有し続けること)が要件になります。
4.税制改正で家なき子特例が適用できなくなったケース
平成30年度の税制改正で、新たに家なき子特例が適用できなくなったケースがあります。何が変わったかというと、以下2点のいずれかに該当する方を除外することになったのです。
- ①相続開始前3年以内に、その者の3親等内の親族又はその者と特別の関係のある法人が所有する国内にある家屋に居住したことがある者
- ②相続開始時において居住の用に供していた家屋を過去に所有していたことがある者
家なき子特例は、勤務の都合などにより被相続人と同居できず、かつ持ち家のない相続人が、被相続人の死亡後にいわゆる実家に戻る場合を想定して設けられました。
しかし「小規模宅地等の80%減」は節税効果が非常に高いので、適用要件をうまく満たす抜け道がいろいろと考え出されました。
「このような状況は看過できない」と判断した当局が、抜け道をふさぐために法律改正し上記規定を設けたのであろうと、当事務所では考えています。
例えば、相続人が自宅を売却し、親族等に買い取ってもらいながら住み続け、あたかも持ち家がない家なき子であるかのようにふるまって適用された事例や、自宅を持たない孫への遺贈により適用された事例などが相次ぎました。
家なき子特例の本来の規定趣旨に照らすと、明らかに制度の趣旨から逸脱しています。
今後も、家なき子特例は非常に厳しい見方をされますが、制度の趣旨となる「子供が実家に戻るため」という大義名分は守られると考えています。
5.家なき子特例の適用が向いている仕事・家族構成の例
家なき子特例を適用することで、相続をうまく乗り切れるであろう仕事・家族構成の例をご紹介します。
5-1.ケース1:転勤の多い仕事に就いている
転勤が多いなら、今後も持ち家は持たずにいる方がいいかもしれません。家なき子特例を適用して相続税を減額できる可能性があります。以下の条件に当てはまる方はご検討ください。
- 自分は転勤族で引っ越しが多い
- 親は持ち家に住んでいる
5-2.ケース2:孫が実家を離れて暮らしている
被相続人の子である相続人が自宅を所有している場合、家なき子特例の適用は難しいです。しかし、被相続人に孫がいる場合は、孫が家なき子特例を適用するという方法があります。
孫が実家を離れて賃貸住宅で3年以上暮らしている場合、以下のプロセスを踏めば、孫が家なき子特例を適用して相続税を減額できます。
- 【孫が家なき子特例を適用するために必要なこと】
- 実家を離れて3年以上賃貸暮らしの孫が祖父祖母と養子縁組をする
- 祖父祖母が遺言で孫に実家を遺贈する
- 孫が祖父祖母の家を相続でもらいうける
養子縁組と遺言を同時に実行することも多いです。
注意点は、孫への相続や遺贈は、相続税額の2割加算の対象となることです。孫に相続させることで逆に税負担が増えることがないよう、慎重に検討する必要があります。
6.家なき子特例の適用に必要な書類は
家なき子特例は同居親族や配偶者への相続に比べ、税務署へ提出する書類が多くなっています。
以下に税務署へ添付するべき書類をまとめます。
6-1.戸籍の附票の写し又は住民票
国税庁の書類案内の参考として「相続開始前3年以内における住所又は居所を明らかにする書類」という記載があります。
6-2.相続人の賃貸借契約書及び相続人がお住まいの家屋の履歴事項全部証明書
国税庁の書類案内の参考として「相続開始前3年以内に居住していた家屋が、自己、自己の配偶者、三親等内の親族又は特別の関係がある一定の法人の所有する家屋以外の家屋である旨を証する書類 」という記載があります。
6-3.被相続人の自宅の履歴事項全部証明書
国税庁の書類案内の参考として「相続開始の時において自己の居住している家屋を相続開始前のいずれの時においても所有していたことがないことを証する書類 」という記載があります。
7.まとめ
家なき子特例は平成30年度改正により、法の趣旨と異なる制度利用には厳格に対応されるようになりました。そして、今後もより厳格な対応になっていく可能性が高いと考えています。
家なき子特例制度は、同居親族や配偶者が相続により自宅を取得する場合よりも厳しい要件になっています。そのため、相続税対策には情勢を読みながらの慎重な対応が必要です。家なき子特例を適用するなら、専門家からのアドバイスを受けることをおすすめします。
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